5「家族で相談」②
――深夜。
レダは、リビングでひとりウイスキーと氷の入ったグラスを傾けて、今後のことに関して考えていた。
家族が帰宅して夕食の席で、ユーヴィンの街に関する事情と、ティーダから助けを求められていることを説明した。
家族たちは、まるで最初から示し合わせていたように「ついていく」と言ってくれた。
決して、ユーヴィンに行くなとも言わず、レダの決めたことを尊重し、そして家族として共に進むと言ってくれたのだ。
決して、みんなが思考を停止したわけでも、レダに決定権を丸投げしたわけではない。
ティーダに助けを請われたレダが、自分の意志で判断してくれて構わないと言うことだった。その上で、危険があろうと家族として、妻としてついていくと決めてくれたのだ。
みんなに感謝すると同時に、自分の決断で家族を危険に巻き込むかもしれないことに不安を覚えた。
無理もない。
今まで、独り身だったので、すべて自己責任だった。
女に騙されようと、パーティーからクビになろうと、自分のことだけを考えるだけでよかった。
しかし、今は違う。
娘がいる。妻がいる。家族がいる。友人がいる。そして、アムルスの人々がいるのだ。
簡単に決めていいことではない。
レダは治癒士をしているが、根本は冒険者だ。
回復魔術を使えるからといって、目につく人たちを全て救わなければならいという義務はない。
それでも、お人好しな性格と、周囲の人を救うだけの力があるから、今まで善意で行動してきた。
その結果が今のレダ・ディクソンだ。
だが、ユーヴィンの街に行くということは、手の届かない範囲に無理に手を伸ばす必要があると考えている。
きっと自分がいなくても信頼できる同僚のネクセンにアムルスを任せることができるし、医者、薬師の協力もあるので心配はない。
冒険者や住民たちだって協力してくれるだろう。
――だからといって、アムルスから離れる決断をしていいのか?
レダは、故郷を出奔してから安定した生活はしていなかった。
ようやく手に入れた自分の場所から離れることに不安がある。
それでも、貴族でありながらいただの平民に、いくら友人とはいえど頭を下げたティーダの力になってあげたいとも思う。
こういう時だけ、かつての独り身の気軽さが懐かしい。
以前のレダならば、ティーダのために一つ返事をしてユーヴィンに向かっただろう。
しかし、今はそれができない。
「――家族って、大変だな。世の中の人たちは、常にこんな不安と責任を抱えているんだろうか?」
「家族のことを考えて頭を悩ませるなんて、レダも大きくなったわね」
「お母さん」
不意にかけられた声に振り向くと、母フィナ・ディクソンがいた。
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