4「家族で相談」①
「それでで。パパはどうするの?」
「それを家族で決めたいから、話を持ち越したんだけど」
帰宅したレダは、エプロン姿で食事の支度をしていたルナの背中を眺めながら、ティーダから相談された内容を話していた。
ちらり、と振り向きながら伺う仕草をするルナに、困ったように肩を竦める。
レダとしては、ティーダが困っているのなら助けてあげたいのだが、今は守るべき家族がいる。
それなりに戦える自負があっても、冒険者の中には想像を絶する強さを持つものがいるのだ。さすがに、戦闘に特化した冒険者に襲われてはレダも困る。
「パパの好きにしていいんじゃない?」
「え?」
「だって、みんなついていくと思うわよぉ」
「それはそれで、困るかな。危険らしいし」
「あのねぇ、あたしたちがパパについていかないわけがないじゃない!」
「……うん、予想していないわけじゃなかったよ」
「それにねぇ、冒険者程度、あたしにかかれば瞬殺よ!」
自信満々にお玉をくるりと回すルナに、確かに、とレダは納得した。
ミナ、アストリット、ヴァレリーはともかく、ルナとヒルデ、そしてナオミはめちゃくちゃ強い。とくにナオミに至っては、勇者であり魔王を倒した実力付きだ。
「ルナたちの力を含めても不安なんだよね」
「ネクセンとユーリはどうするって?」
「ネクセンは家庭があるから無茶はできないって。ユーリは行く気満々」
「ユーリが?」
「うん。彼女曰く、患者がたくさんってことは回復魔法を使いたい放題、らしい」
「相変わらずねぇ」
レダの脳裏に浮かんだのは、普段はあまり感情を表に出さないユーリが「ぐへへ」と顔をだらしなくしている姿だった。
魔法を使うことが大好きな彼女にとって、怪我人だらけの街はある意味理想的なのかもしれない。
「ユーリはテックスさんや冒険者の人たちと仲がいいから、護衛を頼むと言っていたよ」
ユーリに頼まれたら冒険者たちは断らないだろう。
冒険者たちの多くは、よほどの大怪我でなければレダやネクセンではなくユーリに治療される。
冒険者の大半が男なので、どうせ治療費を払って治療されるなら女の子がいいらしい。
レダもネクセンも苦笑しつつ、ユーリは回復魔法が疲れると大喜びだ。
「でも、アムルスを離れるってなったら、どのくらい時間がかかるのかしらぁ?」
「一応、短ければ一ヶ月。長ければ二ヶ月を目安にしているようだよ」
「……短くない?」
「強行軍でかたっぱしから、有無を言わさず捕まえて治療したいみたい」
「……治癒士が無理やり治療するって……すごい光景でしょうね」
「あはははは。とにかく街をやり直すには、まず治療からって考えらしいよ」
正直、長期戦を想定していると思われていたが、ティーダは短期で決着をつけたいようだ。
治癒士を派遣し、とにかく負傷者を治す。次に、仕事の斡旋、故郷に帰るなら路銀を融通し、スラムを潰すことを優先する。
ユーヴィンを仕切るのは現在冒険者ギルドだが、その辺りの話はティーダ自身がまとめるという。
もし相手側が許すのであれば、引退した父が復帰することも考えているようだ。
「ま、アムルスはパパのおかげで大きく進展したら、この勢いに乗りたいって気持ちはわかるわぁ」
「頼ってもらえるのは嬉しいんだけど……とにかくみんなで話をしよう」
「はぁい」
レダは、食事の支度に戻ったルナを眺めながら、家族の帰宅を待つのだった。
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