60「家族とダークエルフ」①
ルナたちは、場所を診療所の裏から、自宅になっている二階に移した。
普段、家族で囲むテーブルにレダの育ての母であるダークエルフのフィナと、ルナ、ミナ、ヒルデ、ヴァレリー、アストリットと順に席についた。
みんなの前にはヴァレリーが入れた冷たいお茶が置かれている。
暑さ以外でも喉が乾いてしまった一同が、言葉なくお茶を飲むと、
「……改めて自己紹介させてもらってもいいかしら」
ふう、と吐息を吐きながらフィナがはじめた。
「もちろんです、お義母様!」
ヴァレリーが、勢いよく首を縦に振る。
彼女だけではなく、一同がレダの母によい印象を持ってもらおうと緊張している。
「ありがと。私は、ダークエルフのフィナ・ディクソンよ。レダの母だけど、血は繋がっていないわ」
レダがどこからともなく現れたのは、すでに知っていたのでそれ以上踏み込まない。
踏み込んでわかる問題でもないし、レダがフィナを母と慕っているので、余計なことをすする必要がないというのが全員の意見だ。
「まず、お礼を言わせてね。――どうもありがとうございます。レダを愛してくれて、家族なってくれて、本当に嬉しいわ」
深々と頭を下げるフィナに、ルナたちが慌てた。
「ちょ、顔を上げてよ!」
「そうですわ。お顔をお上げになってください」
ルナたちの言葉を受け、ゆっくり顔を上げたフィナの瞳にはうっすら涙が浮かんでいた。
「冒険者に感化されて村を飛び出しちゃったレダがなにも連絡をよこさないでずっと心配していたけど、愛する人と家族になれて、かわいい娘もいて、母親としてこれほど嬉しいことはないわ」
レダは、冒険者になることをフィナに反対されていたこともあり、なかなか連絡ができずにいたのだ。
冒険者として成功していれば、連絡しやすかったのかもしれないが、さえない冒険者のひとりでしかなかった。
それでも故郷に帰らなかったのは、意地があったのか、それともまだ諦めていなかったのか。
しかし、フィナにしてみたら、可愛い息子の安否がわからないのだ。心配しないはずがない。
エルフ同様に周囲との関わりを絶っているダークエルフであるため、なかなか探しにいくこともできなかったのだ。
「何度もレダを探し出して、村に連れて帰ろうとしたんだけど、族長の許可が降りなくてね。ほら、エルフにはわかると思うけど、長命種族だから、十年くらいって気にしないでしょう」
「……そうだな。今の私には、一分一秒が愛おしく、惜しいものだが、かつてはそうだった」
「村のみんなも、レダはそのうち帰ってくるだろうって考えていたけど、寿命が違うのだから悠長なことは言っていられなかったのよ」
「それで、探しにきたのか?」
「ええ、まさか族長から許可をもらうのにこんなに時間がかかるとは思わなかったけどね」
だが、蓋を開けてみれば、いろいろあったようだがレダは幸せそうにしている。
母親として、フィナはそれだけで満足だった。
「正直、エルフや王族貴族と結婚しているとは思わなかったけど、幸せならいいの。ただ、ひとつだけ聞かせてね」
フィナの言葉に、一同は背筋を正した。
「――レダを連れて帰ってもいい?」
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