61「家族とダークエルフ」②





「えっと、それって私たちもついていくことになるけどぉ、もちろんいいんですよねぇ?」

「――あら」


 レダを故郷に連れて帰りたいというフィナに、ルナはなんの躊躇いもなくついていくことを告げた。

 娘のミナも、他の妻であるヴァレリー、ヒルデ、アストリットも当たり前だとばかりに頷いている。

 これにはフィナも驚いた顔をし、そして笑った。


「ふふふ、ふふふふふふ! 合格、合格よ! 私は確信したわ! あなたたちなら、レダは絶対に幸せな人生を送れるわ! きっと今も幸せなんでしょうけど、どんどん幸せになっていくのね!」

「もちろん、パパを幸せにするのは私たちも役目ですからぁ!」

「無論だ! ダークエルフには想像できない幸せが待っているだろう!」

「レダ様を幸せにするのは妻として当然と務めですわ!」

「そのためには努力を惜しみません!」


 ルナ、ヒルデ、ヴァレリー、アストリットが、当たり前だと言わんばかりに胸を張る。


「お父さんをたくさん幸せにしてあげるね!」


 ミナもまた、当然とばかりにそう言った。


「――本当に良い子たちね」


 フィナ・ディクソンは、不覚にも涙を流しそうになった。

 愛しい我が子が故郷を飛び出したときには、驚いたが、こうしてちゃんと幸せになっている。

 レダの新しい家族たちは息子を幸せにしてくれると言ったが、これほどの決意を持った女性たちと出会っている時点で、我が子は間違いなく幸せものだ。

 心から安心して、息子を託すことができる、とフィナは確信した。


「あなたたちのような素敵な人と出会えてレダは幸せものね。可愛い息子のことを、これからもよろしくお願いします」


 深々と頭を下げたフィナに、家族たちは「はい!」と迷わず応じたのだった。




 ◆




 仕事を終えたレダは、ネクセンとユーリの帰宅を見送ると、白衣の袖で汗を拭いながら、大きく息を吐き出した。


「――ふう。それにしても、まさか母さんがアムルスに来るなんて……思えば連絡もしなかったし、心配かけちゃってたんだな」


 親不孝なことをしてしまったと反省する。


「よし! じゃあ、今日は外で食事をして、しばらく親孝行を――ん? なんだか、家のほうが騒がしいな」


 住まいに続く階段を登っていくと、楽しげな笑い声が聞こえてきた。

 内心ちょっとだけほっとする。

 家族たちがうまくやってくれていることは、レダとしても嬉しい。


「みんな楽しそうだ――ね?」


 声をかけようとして、レダは硬直した。

 なぜなら、夕食前だというのに、母たちはすっかりできあがっていた。

 ワインの瓶をはじめ、レダのお気に入りのウイスキーの瓶もテーブルの上に転がっている。

 台所では、おつまみを作るアンジェリーナと盛り合わせるミナの姿もある。

 食卓では、母と奥さんに追加して、ナオミ、エルザ、ディアンヌと知り合った女性たちが勢揃いだ。

 よくよく見ると、部屋の奥に酔いつぶされたテックスが倒れている。


「えっと、みなさん、なにを?」


 恐る恐る尋ねたレダに、母が上機嫌に答えた。


「いえーい! お仕事お疲れ様―! あのね、みんなで話をしたんだけど、しばらくこの町で暮らすことにしたからよろしくねー!」

「え? しばらくって?」

「うーん、レダが死ぬまで?」

「それしばらくって言わないよ!?」




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