58「エルフとダークエルフ」②




「うっさい! ちょっと、外にでましょ」


 ヒルデの大声が診療所の外まで響いてしまったので、このままではよくないと判断したルナが、ダークエルフとエルフの腕を掴んで診療所の裏手に出る。


「あのね、診療所で大声出したらパパにまで聞こえるし、迷惑がかかるでしょ!」

「す、すまん。だが、びっくりもする! エルフ以上に引きこもりなダークエルフがまさか人間の町にきているどころか、レダのお母様だというのだぞ!」

「引きこもり癖はお互い様よね」


 慌ててルナに弁解するヒルデに、フィナが笑った。


「……そういえば、エルフ以上にダークエルフって聞かないわね。物語とかには出てくるけど」

「だいたい、悪者が多いぞ! 実際、ダークエルフは厄介な一族だ」

「そうなの?」

「エルフのように自然に溶け込むことで周囲との縁を断ち切るのではなく、魔法を駆使して他者を排除する過激な一族だ」

「そんなこともあったねー」


 ヒルデの言葉にルナはぎょっとした。

 見た目が幼い少女が、いや、それ以上にあのお人好しで優しいレダを育てたダークエルフが、魔法を使い他者を排除するような種族だとは思っていなかったからだ。

 しかし、フィナは否定しなかった。つまり事実なのだろう。


「私たちエルフも人間と関わったり、隠れたりと忙しかったが、ダークエルフはどちらかというと人間よりも魔族と関わりが深かった種族だったはずだ」

「そうなの?」

「そうね。かつては魔王に仕えて人間と醜い争いをしたこともあったわ。エルフとも戦ったわね。魔法に魅入られ、のめり込み、道を誤りもしたけど、なんていうかもううんざりになっちゃってね。だから、他の種族と関わるのをやめて静かにくらしていたのよ。ときどき、人間が迷い込んできて交流したりするけど、来ようと思って来れるような集落じゃないの」

「パパってどんな場所で育ったのかしら」

「あははははは。村は穏やかで平和なところよ。私を含めて、平和な日々にすっかり染まっちゃったからね」


 ルナは、内心、ここに元魔王がいることを伝えるべきかどうか迷った。

 一匹のニャンコとしてセカンドライフを送っている魔王に、わざわざダークエルフを合わせる必要はないだろうし、その逆もそうだ。

 いらぬ波紋は立てたくない。


「えっと、別にダークエルフとエルフが仲が悪いとかはないのよね?」

「うむ。驚きはしたが、戦争中でもあるまいし、いがみ合うことはないぞ。それに、レダのお母様なら、私にとってもお母様だ。いらぬ争いは避けたい」

「私も娘になる子と喧嘩はしたくなわねー。もっとも、まだレダの嫁として認めたわけじゃないけどね!」


 ついにきた、とルナは苦い顔をした。

 レダの母であるフィナが自分たちをまだ嫁として認めていないとわかっていた。

 ここからが正念場だ、と真っ直ぐ幼い姑を見つめた。

 しかし彼女は笑みを深めて、いたずらっ子のように笑った。


「なーんちゃって。嘘よ、嘘。私に知らせずに結婚しちゃったのは寂しいけど、可愛い息子のお嫁さんをいじめたりしないわよー」




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