53「レダの家族」②




「こらママって呼びなさい! ――じゃなくて、お姉ちゃんでしょう!」


 頬を可愛らしく膨らますのは、ビターチョコレートのような褐色の肌と、白銀の髪をツインテールにした十二歳ほどの少女だった。


「……お父さんのお母さん? あれ? でも、お姉ちゃん? どっち?」


 少女――フィナ・ディクソンを連れてきてくれたミナが、困惑の表情を浮かべているが、無理もない。

 ミナと変わらない幼い少女を父が「お母さん」と呼んだだけでも驚きなのに、フィナは自称お姉ちゃんなのだ。

 どっちだと疑問が浮かぶだろうし、そもそも母であるかさえ怪しい。


「ところで、この子がレダの?」

「うん。俺の娘のミナだよ」

「……そう。子供はあっという間に大きくなるって言うけど、レダが父親になるなんて、私も歳を取るわけね」

「いや、お母さんがいくつなのか俺は知らないんですが」

「おだまり! レディに年齢を聞くんじゃないの!」


 そんな親子のやりとりをすると、フィナは未だ目を白黒させるミナに微笑んだ。


「置いてきぼりにしてごめんね。私はフィナ・ディクソンよ。ご案内ありがとうね」

「……ディクソン?」

「えっとね、ミナ。彼女は、俺のお母さんなんだ」

「お父さんの、お母さん……お婆ちゃん?」

「待って!」


 フィナは慌てた様子でミナの口を抑えた。

 ふがふが、するミナに顔を近づけ、引きつった笑顔を浮かべる。


「あのね、ミナちゃん。私は確かにレダの育ての親かもしれないけど、あくまでも育てたひとりなの。だから、お姉ちゃんなのいい?」


 こくこく、とミナが頷くのを確認すると、フィナはそっと手を離す。

 しかし、


「じゃあ叔母ちゃんだね!」

「そ、そうね、この子、いい笑顔で結構言うわね。じゃなくてね、レダのお姉ちゃんだから、ミナちゃんの親戚になるのかもしれないけど、ほら、見て、私って若いでしょ? ミナちゃんと変わらない感じでしょ?」

「そうだね!」

「そんな若くて可愛い子に、叔母ちゃんって言うのはちょっとどうかなーって、お姉ちゃん思うんだけどなぁ」


 フィナとしては、お婆ちゃんと呼ばれるのも叔母ちゃんと呼ばれるのもお気に召さないようだ。

 実際、そう呼ばれるような外見年齢はしていない。

 だが、実年齢はかなり上だとレダは知っている。

 どういうわけか、レダが赤ん坊の頃からフィナはずっと変わっていない。

 もちろん、赤ん坊のころの記憶はないが、少なくとも物心ついたときには今の姿だった。

 そこから、レダが成長し、同じぐらいの年頃になり、追い抜き、今ではレダのほうが親みたいな年齢差が外見になる。

 幼少期は「ママ」と呼んでいたが、次第に「姉」と呼ぶように言ってきた。しかし、レダにとってフィナは母だった。他にも自分を育ててくれた人はたくさんいるのだが、フィナ以外を母と呼んだことはない。


「……あれ? お母さんってそんなに耳が尖っていたっけ?」


 再会してからわずかにあった違和感の正体に気づいたレダが、その疑問を口にしたときだった。


「ちょっとパパぁ? ネクセンとユーリが早く戻って来いって言ってるわよぉ。まったく、あいつらったら――ん?」

「あ、お姉ちゃん!」

「……あら?」


 診療所からレダを呼びに来た、ルナが現れた。

 すると、ルナとフィナの視線が会う。

 しばらくじっと見つめ合うと、揃ってレダに顔を向けて口を開いた。


「「この美少女だれ!?」」




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