51「とある村からとある少女が」
「――便りがないのは良い便り……なんて言うけど、さすがに数年も手紙一枚寄越さないのってどうなの?」
とある森の中にある小さな村に、ひとりの少女がいた。
まだ年齢は十二、三歳ほどだろう。
ビターチョコレートのような褐色の肌と、白に近い銀髪をツインテールにした美少女だ。
闇色の瞳は艶やかなで、すらりとした鼻梁、整った眉と唇。
邪な感情を持たない男でも、つい魅了されてしまいそうな妖艶さを持つ少女だった。
「あの子はこの村で穏やかに育てたかったのに、まったくあの人間ったら変な影響を与えて」
少女は頬を膨らませて、とある人間に怒りを抱く。
「なんでも風の噂だと、悪い女に引っかかったり、いいように利用されたりしたらしいじゃない。だから都会は危険なところだって、口を酸っぱくして言ったのに。どうして男の子って強情なのかしら」
少女が、いや、村で可愛がっていた青年が、ある日突然「冒険者になる!」と言い出し、村を飛び出してから数年が経っていた。
優しいを通り越してお人好しな青年は、人間にいいように利用され、故郷と家族が恋しくなってそのうち帰ってくるだろうと少女は思っていた。
できることなら、夢を叶えて大成してほしいと願うのが家族だが、世の中が甘くないことをよく知っているため、ずっと待っていた。
「泣いて帰ってきたら、優しくしてあげようと思っていたのにねー」
可愛がったが、甘やかすことはしなかったおかげなのか、根性はあったらしい。
いつもニコニコと笑顔を絶やさない柔な子だったが、知らない間に立派な男に成長していたのだと思うと同時に、寂しく思う。
「あいつもあいつで、あの子に影響を与えたくせに様子も見ないで。ったく、今度顔を合わせたら捻り潰してあげるわ」
そんな物騒なことを言いながら、少女は小さな身体に不釣り合いな大きなカバンを背負い、村の外に向かって歩き始める。
途中、会う村人が「おー、ようやく村長の許しが出たのか!」「いってらっしゃーい」「お土産買ってきてねー」と手を振り少女の出発を見送ってくれた。
決して、幼い少女がひとり旅をすることを危険と思う村人はいなかったのだ。
少女はそれに不満を抱くことはなく、笑顔で手を振っている。
「さーて、お姉ちゃんが迎えにいくからね! 待ってなさい――レダ!」
褐色の少女は、尖った耳をピコピコと動かしながら、愛しい弟を迎えにいくため村を出立したのだった。
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