50「とある女性たちの反応」④




「な、なんという不埒な」


 母娘丼の意味を説明され理解してしまったエルザは、茹で上がったように褐色の顔を真っ赤にしていた。

 酒の力もあるようだが、男女の関係に疎いエルザには刺激が強かったらしい。


「初心なエルザはさておくとしてですね、わたくし個人としてはミナのこれからが気になるのです!」

「これからですか? 治癒士を目指し、勉強も魔法も頑張るとお聞きしましたが」

「そうではありません! レダ様との関係ですわ!」


 ディアンヌがミナとレダのことを触れるとアンジェリーナは予想していた。


「はぁ。おふたりは素敵な親子ですよ」

「それはわかっていますわ! レダ様のことを心から慕っているのは、わたくしが母だからということは関係なくわかります」

「なら、それ以上はいいではありませんが」

「で、す、が、今は父性を感じていても、数年後はわかりませんわよ」

「それはそうですが」


 アンジェリーナは、極力ディアンヌが邪推するレダとミナの将来を真面目に受け取ろうとしなかった。

 ふたりが理想的な親子であることもそうだが、実は違う。

 幾人もの少女を見守ってきたアンジェリーナだからこそわかるのだ。


 ――ミナはいずれレダに恋をするだろう。


 その気持ちが、憧れの男性に抱く一時的なものなのか、それともルナのように本気のものになるのかまではわからない。

 しかし、レダという優しく思いやりを持ち、誰よりもミナのことを考えてくれる異性がいたら、きっと他のそれこそ同世代の少年とは恋に落ちることは難しいと思われる。

 年齢の差が大きいので、必ずしも恋をするとは断言できないが、今のミナをみている限り可能性は大きい。


 そもそも出会いからして、ミナにとってレダは印象深く心に刻まれただろう。

 行く当てもなく彷徨っていたところを保護され、人生をやり直すきっかけをくれた。

 姉を受け入れ、家族をくれた。

 男が誰もレダのように善人ではない。

 レダだったからこそ、ミナは今笑顔でいられるのだ。

 そのことを皆自身もよく理解しているだろう。感謝もしているはずだ。しかし、その気持ちが、それ以上のものだったとしたら、もしかすると関係は変わるかもしれない。


 アンジェリーナには、ミナとレダの関係が少し楽しみだった。

 ディアンヌのような邪推ではなく、ふたりの関係は心地よく素敵なものだ。

 親子のままでも、異性としての関係になったとしても、家族であることは変わらない。

 血の繋がりを超え、一般的な結婚さえも超えた関係になるだろう。


 できることなら、その家族の中に自分がいれたら嬉しいと思うが、その辺りは自分の頑張り次第だ。

 エルザとディアンヌが今後レダとどのような関係を築いていくのかも興味深い。


(ただ、ミナちゃんとレダ様の関係をディアンヌ様が引っ掻き回さないことを祈りましょう。……いえ、私が見張っておかないと)


 まだ幼い少女に悪い影響を与えないように、不良聖女の手綱を友人としてしっかり握ろう。

 アンジェリーナはそう決意するのだった。


 そして、その後も女子会は盛り上がり、翌日には二日酔いに苦しむ三人がいた。




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