49「とある女性たちの反応」③
「とにかく! わたくしたちもレダ様にもらっていただきましょう!」
すっかり酔いが回ったディアンヌがそう結論付けた。
「まだ言うか」
これにはエルザも、呆れ顔を通り越して頭痛を覚えた顔をしている。
「エルザだって、レダ様なら嫌ではないでしょう?」
「……嫌なわけがあるまい」
反論すると思われたエルザだったが、予想と違う返答に、ディアンヌとアンジェリーナが「おや?」と内心思う。
「だが、私は散々レダに迷惑をかけてしまった。それでも許されたというのに、これ以上は望まん」
そう言って、ウイスキーを飲み干してお代わりをウエイトレスに求めるエルザを見て、ディアンヌとアンジェリーナが顔を近づける。
「……意外と言うわけではないですが、なんだかんだエルザも好意を抱いているようですね」
「……ええ、ただ、レダ様へご迷惑をかけたことへの負い目があるので、素直になれないようですね」
ふたりも、レダとエルザの一件は知っている。
実の娘ルナが、知らない間にレダの家族になっていた。
しかも、娘という立場でありながら妻を自称する。
アムルスの人間なら、娘扱いに不満を覚えるルナがレダを攻略中だと知っていたのだが、エルザは知らなかった。
結果、レダを敵視してしまいいろいろ突っ掛かったのだ。
とはいえ、すでに過去の出来事であり、レダも思うことはないようだ。
娘のルナとも良好な関係を築けているのだが、やはり迷惑をかけたという自覚はあるようで、その感情がレダへ抱く好意に蓋をしてしまっているように思えた。
ただ、エルザの境遇を考えれば無理もない話だ。
奴隷として弄ばれ、娘を取り上げられてしまった。
その後、逃げ出すことはできたが、娘と会えない時間は何年も続いた。
ようやく再会できたと思えば、赤の他人と家族になっているのだ。
面白くない、と思うのも無理がない。
また男に弄ばれたエルザにとって、いくらレダが善人であろうと、関係ない。
問答無用に年下の少女に手を出すような悪人に見えたのだろう。
エルザ自身も、男性不振、いや、人間不信だったということもあり、揉めに揉めた。
彼女がレダに負い目を抱くのも十分理解できた。
ただし、ディアンヌとアンジェリーナの目には、負い目こそあっても、憎からず思っているのではないかと映る。
「――ただ、母娘丼というのはいかがなものでしょうか?」
「あの、仮にも聖女様なのですから、母娘丼なんて言葉を口にしないでください」
アンジェリーナが口にするのを躊躇う単語を、呼吸するように吐き出していくディアンヌに、苦笑いをしてしまう。
レダに母娘丼をする甲斐性があるかどうかはさておき、アンジェリーナとしては今は家族として愛情を育んでもらいたいと言う気持ちがある。
もし彼らの家族に加われるのであれば、それほど嬉しいことはないだろうが、あまりせっついて邪魔になっては困るのだ。
そういう意味では、この肉食系聖女のストッパーにならなければ、と思う。
「……母娘丼とはなんだ?」
すると、エルザが首を傾げてそんなことを聞いてきた。
アンジェリーナはもちろん、ディアンヌも硬直する。
エルザにその手の単語の知識がないのはいいのだが、いくら酒の席とはいえ説明するのもいかがなものかと思う。
「おい、母娘丼とはなんだ!?」
戸惑うふたりを他所に、気になった単語の追求を続けるエルザに、どう説明したものか、とアンジェリーナは冷や汗を流すのだった。
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