48「とある女性たちの反応」②




 アンジェリーナの気持ちを知り、ディアンヌとエルザが「おおっ」と身を乗り出した。


「レダ様は、その、とてもお優しくて素敵な方です。初心なところも可愛らしいですし、私を商売女だという偏見の目で見ることはありません。レダ様と一晩だけ過ごさせていただきましたが、とても幸せな時間でしたわ」


 今でこそ、娼館でナンバーツーの位置にいて、育成と経営に関わっているため、一線を引いているものの、ほんの数年前までは王都で客と一夜を共にする娼婦のひとりだった。

 美しく、気立てのよく、悲壮感も感じさせないアンジェリーナは言うまでもなく人気があった。

 恋人になってほしいと求められたことも、求婚されたことも数えきれない。

 親の借金のせいで娼婦になった過去を持つアンジェリーナだが、その人気のおかげで借金はあっという間になくなった。

 いつでも娼婦を引退することもできたが、他にできることもなかったので続けていた。

 次第に、本を読み、独学だが勉強し、教養を身につけていった。

 すると、大きな店を構える商人や、貴族などとも懇意になり、求婚が増えた。


 ときには、夫婦仲を改善したいという貴族の奥様に手ほどきをしたことさえあった。

 アンジェリーナの人柄と、誠実さが、貴族というコネを作っていったのだ。


 しかし、それを面白く思わない人間もいる。

 その筆頭が同僚たちだ。

 親の借金のせいで売られながら、あっという間に返済し、ニコニコしているアンジェリーナに嫉妬する女性はたくさんいた。

 アンジェリーナに勝手に敵愾心を抱き、貴族という肩書きしか持たない男に身請けされて、娼婦以上に不幸な目に遭った子も見てきた。


 そんな王都での生活が嫌になり、アムルスに移り住むこととなる。

 同じくアムルスに移り住んでいた、かつての姉代わりに誘われて再び娼婦になるも、すぐに育成と経営に関わるようになった。

 女性が働きやすく、傷つくことのないように尽力したのだ。


 娼婦としてではなく、アンジェリーナ個人に惚れて求婚する者も後を立たない。

 しかし、断ると、感情を剥き出しにして「娼婦のくせに」と心ない言葉を言う人間もいた。

 いろいろな人と出会い、接してきたアンジェリーナは少し会話をすれば、相手がどのような人間か見ぬくことができるようになったが、それでも傷つく出来事に遭遇することがあるのは事実だ。


 そんなアンジェリーナにとって、良くも悪くも初心で、善人を通り越してお人好しのレダは衝撃的だった。

 身体を重ねなかったからこそ、惹かれた。

 そして、思い出した。

 かつて、王都で自分がレダと一度会っていることを。


「ではでは、わたくしたちと一緒にアンジェリーナ様も!」

「ふふふっ。それも素敵かもしれませんね」


 レダと出会ったのは、まだ娼婦になって間もない時だった。

 最初に売られた娼館はいろいろな意味で質の悪い場所だった。

 乱暴をされ、泣いているアンジェリーナにふらりと現れたレダが回復魔法をかけて泣き止むまで傍にいてくれたのだ。

 そして、彼の夕食だったはずのサンドイッチをもらった。

 今でもあの時のことは覚えている。

 だが、まさか、王都から遠く離れた土地で、数年ぶりに彼と再会できるとは思わなかった。


「意外と乗り気だな」

「ええ、実は――」


 アンジェリーナは少し勿体ぶってから、レダと実は王都で出会っていたことをふたりに語った。

 相手は覚えていないが、アンジェリーナの大事な思い出だ。

 エルザとディアンヌは、レダとかつて出会っていたという話題に食いつき、女子会はまだまだ盛り上がるのだった。




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