45「住民たちの反応」①




「テックスさん、一杯飲みましょうよ!」

「俺はお姉ちゃんがいる店にいきてえんだけどなぁ」

「そんなこと言わずに、奢りますから!」

「ったく、男どもにモテても嬉しくねえんだが、まあ、いいさ。んじゃ、付き合ってやるよ!」

「ありがとうございます! さ、いきましょう!」


 冒険者テックス・ノーランは、同じ冒険者たちに囲まれて仕事終わりの酒を飲むために酒場に足を運んだ。

 酒場と言っても、友人のドワーフが切り盛りしている馴染みの店だ。

 自宅に帰るような感覚で、若い冒険者たちとテックスは酒場に入る。


「あー、労働のあとのいっぱいはうめえなぁ!」

「テックスさん、そんなおっさんみたいに」

「馬鹿野郎、俺は実際おっさんじゃねえか」


 中年冒険者だが、アムルスで一番と言っても過言ではないテックスは、若き冒険者たちから憧れと尊敬の的である。

 領主のよき相談役であり、冒険者ギルドアムルス支店の顔役、そして「あの」レダ・ディクソンの友人なのだ。

 ここアムルスでは、冒険者たちがパーティーを組むことは少ない。

 基本的に、冒険者ギルドに所属する冒険者たちが、仲間でありパーティーであるのだ。

 なので、テックスは、実質アムルスという冒険者パーティーのリーダーと思われている。

 また住民たちからの信頼も厚く、困ったときはとりあえずテックスに相談するといい、とまで言われていた。


「ところで」

「おう」

「テックスさんはレダさんのご友人ですよね」

「ご友人って、そんな上品な関係じゃねえよ。ダチつーか、まあ、家族だわな」


 テックスにとってレダは、弟のような存在だ。

 子連れで移住してきたときは、疲れた顔をした兄ちゃんだと心配だったが、蓋を開けてみれば回復魔法をはじめ魔法に長けた人物だった。

 柔軟性と協調性、そして親しみがあり、娘のミナと一緒にあっという間にアムルスに馴染み、テックスの心配が杞憂だったと安堵した。


「なんだ、お前らも今話題のレダ・ディクソンか?」

「あはははは、その通りです」


 苦笑する若き冒険者に、テックスは嘆息した。

 今、レダ・ディクソンは有名だ。

 もともとお人好しで欲のない治癒士として有名だったが、今は治癒士としてではなく、レダ個人が有名だった。


「あの小悪魔ルナちゃん! 領主様の妹ヴァレリー様! 王女様のアストリット様! ロリっ子エルフのヒルデちゃん! この四人を嫁にしたレダさんは、この町の有名人ですし、憧れの存在です!」

「憧れねぇ」


 テックスはビールを飲み干して、苦笑いだ。

 本人が聞けば、羞恥に顔を赤くしてしまうだろう。


「いや、まあ、以前からあの四人がレダさんにぞっこんだったのは知っているんですけど、治癒士とはいえ平民のレダさんが、ヴァレリー様とアストリット様と結婚しちゃうっていうのは、驚きっていうか、なんというか」

「まぁな。正直、王女さんは俺もびっくりだわ」


 いくら治癒士の立場がよく、希少性があったとしても、領主の妹はさておき、王女まで嫁にできるのは驚きだ。

 レダが王女アストリットの苦しみを解き放った経緯があり、王や王子がお忍びで会いにきて感謝を伝えたほどなので可能性としてはあったのだろうが、こうして形になるとやはり驚きが大きい。

 もっと言えば、正室ではなく妻のひとりという立場なので、よく反発がなかったものだと思う。

 領主のティーダ曰く、実際はアストリットを嫁にという貴族が文句を言っていたのだが、その辺りはすべて国王陛下と王子が黙らせたらしい。


「あー、あの小悪魔的なルナちゃんが人妻かぁ……いや、それはそれでいいな!」

「ヴァレリー様だって、ご結婚されてからこう美人になったっていうか、大人の女性になったていうか!」

「わかる! わかる!」

「アストリット様は、高貴な方のはずが、親しみやすくていいんだよなぁ」

「だよなー」

「ったく、しょうもねえ奴らだな」


 男が集まるとこれだ、やっぱり飲むなら綺麗な姉ちゃんがいい。

 テックスは笑って、酒の追加注文をした。




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