44「お盛んですね」
ルナを始め、ヴァレリー、ヒルデ、アストリットと結ばれたレダが、みんなで揃って結婚届を領主であるティーダに提出した。
ティーダは「レダが義弟になったか!」と喜んでくれた。
実を言うと、ルナと一夜を共にした日に、ヴァレリーたちとも今後一緒に歩んでいきたいと覚悟したレダは、ティーダに挨拶に来ていた。
彼は「妹をよろしく頼む」とだけいい、快諾してくれた。
王都の陛下と殿下にも、アストリットと今後一緒に歩んでいく旨を送ったのだ。
そして、幸せな日々が続いた一週間後。
「――毎日お盛んですね!」
朝、身支度を整えていると愛娘のミナが笑顔の不意打ちを言い放ち、レダはたまらずその場に膝をついた。
ミナの腕の中では元魔王元飼い猫のノワールが抱かれており、なんとなく羨望の眼差しを向けているのは気のせいだろうか。
「み、ミナ、なんで急に?」
動揺を隠せず、恐る恐る尋ねてみると娘はちょっと顔を赤くした。
「あ、あのね、ノワールがこういうといいって言うから」
「ノワールさん。娘にそういうことを教えるのはいかがなものかなと!」
「お、落ち着くのだレダよ。些細な戯れではないか。それに、主人も子供ながらにそういう知識はちゃんとあるのだ。むしろ、いかがなものなのは毎晩ハッスルしているレダたちであろう?」
「――え?」
ノワールの言葉に、まさかと娘を見ると、彼女は顔をより紅潮させると、
「あのね! わたしね、妹がほしいかな!」
と、言い放ち、去っていく。
「……そっか。子供だと思っていたけど、そういう知識はちゃんとあったんだね」
子供扱いしすぎていたことを反省すると同時に、夜はもっと声を抑えようと誓う。
なんとうか、今まで極限まで溜まりに溜まっていたものが解き放たれてしまったせいが、自分でも愛しい妻たちとベッドを共にすると制御が効かなくなってしまう。
人肌やぬくもりもそうだが、心から愛しい思える彼女たちと身も心も愛し合うことができることに心底喜びを感じているのだ。
ただ、やりすぎなようで、今もレダの部屋では昨晩一夜を共にしたルナが起きることができず、他の女性たちに介抱されていた。
レダも手伝おうとしたのだが、「男性はノータッチでお願いしますわ」とヴァレリーに笑顔で追い出されてしまった。
その後、レダはミナと一緒に朝食の準備をし、家族みんなで食事を取った。
娘と猫が学校に行くのを手を振って見送ると、「さあ、今日も仕事を頑張るぞ!」と診療所のほうに足を運ぶ。
診療所では、すでに受付に何人かいた。
怪我らしい怪我の人はおらず、肩こりや腰痛などのお年寄りが多い。
また、居心地のいいらしい診療所の待合室を知り合いと会う場所にしている人もいる。
大事のときは、声をかけずとも場所を開けてくれるので、レダはもちろん他の患者もとやかく言わない。
田舎の診療所などこんなものだ。
「レダちゃん、レダちゃん」
白衣に袖を通し、診療を開始しようとすると、見知った老女が声をかけてきた。
レダとミナがアムルスにきたばかりの時からなにかと世話になっている近所の人だ。
冒険者をしている彼女の息子さんもよく仲間と一緒に診療所にくる。
そんな彼女は、どこか含めた笑顔を浮かべると、レダを手招きした。
「どうかしましたか?」
「いえ、ね。レダちゃんが最近結婚したのは知っているし、良いことだと思うわよ」
「はぁ」
「結構お盛んよね」
「……はい?」
「そのね、ときどき、耳のいい人は聞こえちゃうことがあるみたいなの」
「……申し訳、ありません」
レダはそれだけしか言えなかった。
まさか夜の運動会の声が周囲に漏れていたとは。
夜でも賑やかなアムルスであるからちょっと油断していた。
「ああ、ごめんなさいね。責めているとか注意しているわけじゃないの。ただね」
「ただ?」
「お嫁さんが足りないようなら、私の孫なんていかがかしら?」
「いえ、あの」
「お嫁さんたちが先にバテてしまうようだし、ね」
「いや、ね、と言われましても」
困り果てるレダに、老女は「考えておいてね」と言うと、待合室の長椅子に戻っていく。
はぁ、とため息をつくレダの背中を、ぽん、と同僚のユーリ・テンペランスが叩いた。
振り返ると、彼女はぐっと親指を立て、
「お盛んですね」
と、にんまりする。
娘と患者さん、そして同僚にまでそんなことを言われて、レダは頬を引きつらせるのだった。
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