41「レダとルナ」③




「ルナ」

「……パパ」


 ディクソン家のリビングで、レダとルナはふたりきりだった。

 ヴァレリーたちは、ふたりに気を利かせて外に飲みにいってくれれたのだ。幸い、町は今日のお見合いパーティーのおかげで賑やかだ。

 みんなの飲む場所はいつも決まっているし、アムルスの町は治安がいいので女性たちだけでも安全だ。もちろん、時折外部からやってきた無作法な人間もいるが、領主の妹であるヴァレリー、王女アストリットに手を出して傷でも付ければことになるだろうし、ふたりと一緒にいるのはエルフの戦士であるヒルデと、規格外の勇者ナオミだ。彼女たちに悪さをしようものなら、命がけになること間違い無かった。

 なのでレダは、心配することなく、感謝して家族を送り出した。


「あ、あのね、パパ、その……えっと、あーもうっ、あたしは受け身になるのが得意じゃないのよぉ」

「だと思ったよ」


 レダは苦笑した。

 普段、小悪魔的な言動が多いルナだから、少し意外だった。だが、知らなかった少女の一面を知ることができてよかったと思う。


 ソファーに腰を下ろして、もじもじしているルナの前に、レダは跪いた。


「パパ!?」


 驚くルナに、レダは懐から出した小箱を差し出す。


「え?」


 そして、小箱を開けた。


「――うそ」


 ルナが驚くのも無理はない。

 小箱の中には、銀の指輪があったのだ。

 この指輪の意味を理解したのだろう。ルナの褐色の頬がみるみる赤く染まっていくのがはっきりわかる。


「実を言うと、ルナの気持ちに本気で応えようと考え出した頃に準備していたんだ。今日のお見合いパーティーで、俺は決意した。――ルナ」

「は、はひ」

「俺と結婚してください」


 改めてレダはルナにプロポーズした。


「俺はおじさんだし、ルナよりもずっと年上だ。君のような可愛くていい子は分不相応かもしれない。だけど、ルナとこれからもずっと一緒にいたいんだ。もちろん、家族として一緒にいるのは変わらないけど、できることなら奥さんとして隣にいてほしい」


 気の利いたことを言える自信がなかったレダは、自分の気持ちを素直に伝えた。

 思えば、彼女に好意を示されて最初は戸惑っていた。当たり前だ。娘として受け入れようとしたのに、恋人や妻に、などと考えることなどしてはいけない。

 だが、彼女の真っ直ぐに慕ってくれる気持ちはもちろん、時折見せてくれる女性としての一面、家庭的なところ、なによりも優しいところに、レダは次第に惹かれていった。

 いつか、彼女が自分ではなく、別の誰かと恋をして嫁に行く日が来る――そう考えると胸が痛くなるのを知り、気づけば彼女を女性として愛しているのだと自覚した。


 そのすべての感情を込めて、レダはプロポーズを決めた。

 そして、


「――はい」


 真っ赤な顔をしたルナは、瞳を潤ませて返事をしてくれた。

 レダはそのまま指輪を取り出し、ルナの左手の薬指にそっとはめる。


「あのね、言いたいことはたくさんあるし、伝えたいこともたくさんあるんだけど」

「うん」

「ちょっと心臓がばくばくしすぎて言葉にならないから、大事なことだけ言うね――パパ、大好きっ! 愛してるっ!」


 この日、レダとルナは結ばれたのだった。




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