40「レダとルナ」②




「ルナ! 抜け駆けするなんて許さんぞ!」

「ルナちゃんっ、ずるいですわ!」

「……せっかくレダからプロポーズしてくれたのに、気絶しちゃうなんて、意外と攻めに弱いのね。かわいい一面が見られたわね」


 リビングのソファーに横たわり、濡れたタオルを額に当てるルナを囲み、家族でありライバルでもある女性たちが言いたい放題だった。

 いつもなら言い返すルナも、醜態を晒してしまったため強く言えずに悔しそうな顔をしている。


「だが、まさかレダがプロポーズするとは思わなかったぞ」


 ヒルデが腕を組んでそんなことを言うと、ヴァレリーが同意するように頷いた。


「ルナちゃんの今までのアタックが効いたのですわ。以前にも、わたくしたちをちゃんと女性として意識してくださるとは言ってくださいましたが、そこからここまでの展開の早さには少々驚きです」

「べつにいいんじゃないかしら。レダだってもう三十なんだし、結婚して子供がいたって構わないでしょう。危険と隣り合わせの冒険者だったらまだしも、領主と住民から信頼されている診療所の所長なんだから、職と収入が安定したら、次は家庭を持ちたいと思うのは普通よ」


 アストリットも今まで受け身だったレダが攻めに転じたことは驚いているが、別にあれこれ言うつもりはない。

 彼女が気にしているのは、今後の展開だった。

 ルナにプロポーズしたレダが、これからどうするのか。

 改めてルナに結婚を申し込むのか、それともこのままなあなあにしてしまうのか。


「さて、今夜が勝負ですわね」

「勝負? どういうことだ?」

「うふふふふ、レダ様はプロポーズという行動を起こしてくださいました。まあ、思いの外ルナちゃんがヘタレでしたが、しかし! ここでルナちゃんに頑張ってもらわなければなりません!」


 ヴァレリーが意気込む。


「ヴァレリー、あなたね、変なことをルナにさせたらだめよ」

「変なことなんてしませんわ! ただ、責めるなら今夜ですわ!」

「させる気満々じゃない」


 鼻息荒いヴァレリーに、アストリットが嘆息した。

 どうも彼女は、早々にルナとレダを結び付けたいようだ。


「焦る必要なんてないと思うのだけど」

「エルフ的にも同感だ。もちろん、レダと結ばれるのなら早いほうがいいが、焦ったせいで失敗するのはごめんだぞ」

「ヒルデちゃんはエルフだからそんな悠長なことが言えるのですわ! わたくしもアストリット様も世間では嫁き遅れと言われるお年頃なのですよ!」

「ちょっと、私を巻き込まないでよ!」

「事実じゃないですか! それに、こういうことを言うのはちょっとためらいがありますが、男性は歳を重ねるとお元気がなくなるというので、結ばれるなら早いほうがいいのです!」


 顔を真っ赤にしたヴァレリーの台詞、しん、とリビングが静まってしまった。


「……はしたない女だな」

「本当にはしたない子ね」

「ちょ、ふたりそろってそんなことを! しかし、世継ぎの問題もありますし重要なことですわ!」


 ふんす、と鼻息荒くするヴァレリーが普段なにを考えているのかだいたいわかった気がしたヒルデとアストリットは嘆息した。

 とはいえ、言いたいことはわかる。

 さすがに、まだ三十歳のレダが機能的に低下することはないと思うが、子供を作り、育てるのなら早いほうがいいだろう。

 それに、結婚し、愛情を示しあう時間が長いことにこしたことはない。


「おーい」


 リビングで盛り上がっていると、自室からひょっこりナオミが顔を出した。

 彼女はお見合いパーティーに興味を示さなかったが、お祭り状態の町を満喫し、酒を飲み、お腹一杯になって気持ちよく寝ていたはずだ。


「どうしましたから、ナオミ様?」

「話が聞こえたから、一応伝えておくけど、レダが帰ってきたぞ」


 ナオミの言葉に、ごくり、と一同が息を飲む。

 そして、ルナに視線が集まった。



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