35「お見合いパーティーのはじまり」①




「あー、胃が痛い」


 お見合いパーティー当日。

 珍しくこざっぱりした洋服に身を包んだレダが、会場で他参加者の男性たちと一緒に女性陣の登場を待っていた。

 レダの隣には、テックスもいて、彼は離婚歴がいて娘も王都にいるのだが、恋愛はしっかりするタイプらしく楽しそうにしている。

 そんな彼の手には冷えたビールがあり、すでに一杯やっているようだった。


(――この人、お祭り気分で参加しているな)


 テックスをはじめ、半分ほどの参加者が、あわよくば女性とお近づきなりたいと同時に、このお見合いパーティーというイベントを直に楽しみたいという感じだ。

 残りの半分は、本気で嫁さんを探している人であり、心なしか彼らの目が血走っていて怖い。

 女性陣も同じのようで、イベントを楽しむ感覚で参加している女性が半分で、旦那がほしいと本気で思っている人は半分のようだ。


(確か、参加者の中には他の町からわざわざ参加するためにきた人もいるんだよね。荒れなきゃ良いけど)


 会場の外から女性陣が入場してくると男性たちが拍手で迎える。

 この様子を見物するために集まった人たちもたくさんいる。

 アムルスの町や、近隣の町々から集まった人たちが、ビールや食べ物片手に観客になっているのだ。


「――それでは女性たちの入場です! 皆様、拍手でお出迎えください!」


 明るい感じの司会の青年が大きな声を上げると、参加者と観客から割れんばかりの拍手が響く。

 レダも慌てて拍手した。


 すると、拍手を合図に、それぞれお着飾り気合の入った化粧をした女性たちが次々と手を振って会場に入っていく。

 すでにお目当ての男性を見つけている女性は、目配せや、ウインクなどをして気があることをアピールしていく。

 アピールされた男性は、喜んでテンションを上げるか、狙いの女性じゃなかったことに落胆するか、反応も様々だ。


「お、おい、レダ!」

「はい? どうしましたか?」

「お、俺の見間違いじゃなければよう、ほら」


 テックスが驚いた顔をして指差した方を見ると、そこには――ルナ・ディクソンとミナ・ディクソンの姉妹がいた。


「えぇええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」


 ふたりともお揃いのワンピースを着て手を繋いで会場に入ってくる。

 ルナは唖然としているレダに気づくと、悪戯が成功したように手を振った。

 ミナは「おとうさーん」と楽しそうに手を振っている。彼女は、お見合いパーティーがどんな目的をしているのかわかっていない可能性があった。

 濃い目の化粧をした女性たちの中で、最低限の化粧しかせず、白いワンピースにサンダルという姉妹は、実に清楚に映った。

 目立つことばかりを考え、周囲と同じになってしまった女性たちが、悔しそうに歯噛みしている。

 まだ未成年のミナはさておき、成人したてのルナと同世代の子も何人か参観しているのだが、その誰よりも、いいや、参加者の誰よりもよく目立ち――そして綺麗だった。


「い、胃が、痛い、ヒール、ヒール」

「はははははっ、こいつはやられたなぁ。お前さん、ここで仕留められるぞ」


 大笑いするテックスに対し、レダはとてもじゃないが笑うことなどできなかった。



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