34「お見合いパーティー 相談編」③





 お見合いパーティー強制参加が決まってしまったレダは、開催日を翌日に控え、いまだ家族たちに参加することを打ち明けられずにいた。

 その理由は簡単だ。

 自分のことを慕ってくれている女性たちに「お見合いパーティーに参加することになりました」などと、口が裂けても言えるはずがない。

 万が一、口にできたとしても、その後の女性たちのお怒りが怖かった。


「ああ、俺はなんてへたれ野郎なんだ。ていうか、お見合いパーティーは明日だって言うのに、どうすればいいんだ!?」


 ここ数日、胃の痛い日が続いた。

 無論、隠し事をしているストレスで、だ。

 おかげでお酒を嗜むことができず、食事用も心なしか減った。

 ミナが「おとうさん大丈夫?」と心配してしまうほど、目に見えて不調らしい。


「パーパっ」

「ひぅっ、る、ルナ」

「どうしたのぉ、そんなにびっくりしてぇ」

「あ、いや、別に、もう寝ていると思ったから」

「ふぅん。あ、そうそう、パパ知ってる? 明日って、お見合いパーティーがあるのよぉ。なんでも近隣の町や王都からも参加する人もいるらしいわぁ」

「へ、へー」


(な、なぜだ、なぜ急にルナがお見合いパーティーの話を。今まで興味すら示した様子がなかったのに――まかさ)


「パパもお見合いパーティーでるのよねぇ」

「――ひっ、やっぱりバレてる!?」

「もちろん、パパのことだもの。それで、あたしたちを蔑ろにして、かわいい奥さんでも調達するつもりなのかしらぁ」

「い、いえ、そんなことは決して」

「冗談よぉ。ふふふ、パパったら本気にしちゃって。あたしたちがお見合いパーティーに参加するくらいで怒るわけないじゃない。どうせ領主に頼まれて断れなかったんでしょぉ」


 ルナの言葉に心底安堵した。


「そ、そうなんだよ! ティーダ様にも困ったよね。お見合いパーティーとか俺が参加したって、ねえ」

「そうね。パパにはあたしたちがいるものねぇ。でも、出るんでしょ」

「えっと、はい、もう決定事項のことらしく。すみません」

「謝ることなんてないのよぉ。パパは治療士だからね、前々から秘密裏にちょっかいかけようとする女を始末――じゃなかった、排除していたのよぉ」

「今、始末って言ったぁ!」


 最近、忘れがちだが、ディクソン家の長女は過激派だったことを思い出す。


「ふふふっ、明日が楽しみね。楽しんできてね、パパ」

「えっと、はい、って返事していいやらどうか迷うよ」

「あら、乗り気じゃないの」

「そりゃそうさ。今は、毎日が幸せなんだ。ルナたちみんながいて、安定した仕事もあって、先生なんて言われて町の人たちに頼られて。十分すぎるよ」

「……なるほど、パパがあと一歩なのは、そこなのねぇ」

「ルナ?」

「ううん、なんでもないわ。あのね、あたし思うのよ。最近のパパって、ほら、仕事ばかりじゃない。仕事終わっても、あたしたちにかまってばかりだし。だから、たまには普段しないようなことをしたらどうかなーって思うのよねぇ」

「それでお見合いパーティー?」

「そ。それで、お見合いパーティーよ」


 いまいち、ルナがお見合いパーティーに寛容なのが不思議だ。いや、怪しいと言ってもいい。

 レダの知るルナなら、主催者のティーダの屋敷に乗り込んででもお見合いパーティーを中止にさせるくらいの事はする。

 それに、ヴァレリーやアストリットもあまり快く思わないはずだ。

 レダも自分から出たいといった記憶は微塵もないが、女性たちからしたらいい気持ちにはならないと思う。

 それだけに躊躇っていたのだ。


「パパにはお見合いパーティーに出てもらわなければ困るのよぉ」

「へ? なんで?」

「ふふっ、簡単なことよ。結婚にがっつくような有象無象よりも、あたしたちのほうが魅力的だと確認してもらうためよ!」

「あー」


 なんだかルナらしい理由でほっとした。

 もっとなにかいろいろ企んでいるのかと思っていたが、杞憂だったらしい。


「でもね、パパ」


 ルナがそっとレダの耳に唇を近づける。


「万が一、他の女に目移りしたら――」


 そこまで言うと、頬にキスをして背を向けてしまう。


「ちょ、ルナ! 怖いから最後までちゃんと言って!」

「もう、パパったら、女の子になにを言わせるつもりなのよ。エッチ!」

「――えぇえええええ、なに言おうとしたのぉ!?」


 こうして、今日もルナの小悪魔っぷりに翻弄されてしまうのだった。

 そして、お見合いパーティー当日を迎えた。




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