33「お見合いパーティー 相談編」②




 強制的にお見合いパーティーへの参加が決まってしまったレダが、肩を落としてとぼとぼと帰路に着くのを見守っていると、ティーダの背後から声がかかった。


「はぁい。辺境伯様ぁ。ご苦労様ぁ」

「やあ、ルナ。君に頼まれた通り、レダをお見合いパーティーに強制参加させたよ」

「うふふ、ありがとぉ」


(やれやれ、レダも大変だ)


 ティーダは内心苦笑した。

 レダをお見合いパーティーに求める声は実際に多くあったが、取り合うつもりはなかった。

 彼の周りには魅力的な女性たちがいる。

 すでに彼も彼女たちに心を許しているようなので、ここで無粋なことを友人としてもしたくはなかった。

 とくに、かわいい妹もレダを取り巻く女性のひとりだ。

 妹の恋愛を邪魔して嫌われたくはない。


 だが、結果として、ティーダはレダのお見合いパーティーへの強制参加を決断した。


 それにはいくつか理由があるが、大きな理由としてルナ・ディクソンに父を参加させるよう頼まれたから、というのがある。

 レダ・ディクソンの血の繋がらない娘でありながら、彼を深く愛しているルナのことは、ティーダのみならずアムルスでは有名だ。

 そんなルナの存在を知りながらも、あわよくばレダと――と考える女性もいるのも事実だが、なんだかんだとルナがレダとくっつく最有力候補だとされている。

 実際、レダも最近ではルナを女性として意識するようになっているらしく、ルナに大きな自信を与えている。

 そんなルナが、レダとさらなる関係の発展を求めた結果、お見合いパーティーの参加だった。


 無論、レダだけが出場するというわけではない。

 ルナも出場し、普段と違う場面を利用してアプローチするのだ。

 そして、あわよくばそのまま観衆の前で逆プロポーズまで考えているのだから恐ろしい。

 ティーダとしては、妹のヴァレリーを応援してあげたかったが、ルナから提案された取引の内容に屈してしまい、妹ではなくルナに味方する形となった。


「それで、約束のものは準備できているかい?」

「ええ、もちろんよ。あたしって、ちゃんと約束を守る女なのよぉ」

「そこは疑っていないよ。だけど、本当に、僕が欲しているものが準備できていることに驚く他ない」

「じゃあ、直接見てみればいいじゃない」


 そう言って、ルナが懐から二通の手紙を取り出した。

 ティーダは宝物でも扱うように、震える手でそっと包み込むように受け取る。


「――素晴らしい」

「ふふふっ、あたしと取引してでもほしいなんて、辺境伯様もなかなか大変ねぇ」


 手紙には子供が書いた文字で「パパ大好き!」と書かれていた。

 ――つまり、娘たちからの手紙だった。


「くぅっ、最近反抗期になって私のことを嫌いというようになった娘たちからのラブレター! すばらしい! よくやってくれたルナ!」

「いい仕事したでしょぉ。中を見たらきっと泣くわよぉ」

「……ふはははは、これで戦える! アムルスのために私はまだまだ戦えるぞぉ!」


 ようはちょっと反抗期に足を踏み入れた娘たちに邪険にされはじめたティーダへの手紙をルナが書かせたのだ。

 内容は、父を尊敬していることと、家族として心から愛していることが、子供たちの直筆で書かれている。

 これに喜ばない父親はいない。


「あたしは約束を守ったからねぇ。パパとお見合いパーティーでうまくいったら、いろいろと手配をよろしくねぇ」

「任せたまえ、レダとルナの幸せを私は心から祈っているよ!」

「安心していいわよぉ。あたしがパパをゲットしたら、ちゃんとヴァレリーたちとわけわけするからぁ」

「期待しているよ」

「任せてねぇ」


 辺境伯を味方につけたルナは、にんまりと笑うのだった。



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