32「お見合いパーティー 相談編」①




 ローデンヴァルト辺境伯の屋敷の一室に、レダはティーダといた。

 いつもならふたりで仕事終わりの一杯を、という流れなのだが、「おとうさん飲み過ぎだよ!」とミナに言われてしまい、他家族も頷いていたため本日は休肝日である。

 ティーダもそんなレダに付き合ってくれて、ふたりで紅茶を嗜んでいた。


「ノワール殿に、ご協力に感謝するとお伝えしてくれ」


 新魔王やそれらの脅威を調べることに、元魔王ノワールが協力してくれることを伝えると、ティーダはほっとした様子を見せた。

 今日も一日、怪我人は多く、診療所も大忙しなのは変わらないが、精神的な負担は減っただろう。


「さて、レダ。もうひとつ君に相談がある」

「はぁ」


 こう言ってはなんだが、ティーダの相談は結構大変だ。

 巻き込まれるパターンが多いというか、巻き込む気満々なのだろう。

 友人の頼みを断るつもりはないが、最近、忙しすぎる。


「レダ――お見合いパーティーに興味はないかな?」

「ないですねぇ」

「だろう。そこで」

「待って待って、俺、今、興味ないって言いましたよね! どうして話を進めようとしているんですか!」

「もうレダを巻き込むと決めているからだよ!」

「――はっきり言ったなぁ!」


 ここ何ヶ月かの付き合いで、お互いに遠慮がなくなった。

 辺境伯と平民ではあるが、本当に良き友人だ。


「さて、話を進めよう。実を言うと、お見合いパーティーをしてほしいという要望が住民たちから出ている」

「……そんなくだらない要望が出てるんですね」

「くだらなくはない! むしろ、死活問題だ!」

「え?」

「アムルスはそれでなくても辺境にあるのだ。嫁や婿が足りていないのだよ!」

「それでお見合いパーティーですか?」

「そう! それでお見合いパーティーなんだ!」


 だめだ。意味がわからない。

 結婚相手が足りていないのは理解できる。

 発展途上の町にそもそも人が多くはないのだ。

 だが、この町は毎日のように成長している。ならば、人口を増やし、子供を増やし、大きく発展させるべきなのだ。

 という、ティーダの考えは理解できるが、そこでお見合いパーティーをしようとするのが理解の範疇の外だった。


「ヴァレリーたちに囲まれて悦に浸っているレダにはわからないと思うが」

「悦に浸ってなんかいませんから!」

「そもそも女性と縁がないという男は多いのだ! 女性であっても、仕事として男と接することがあってもプライベートでは会わないという場合もある。誰しもがレダのように恵まれた状況にはいないのだよ!」

「……もちろん、自分が恵まれていることは承知しています」

「なら結構」

「で、それがお見合いパーティーとどうつながるんですか?」

「強いて言うならば、出会いの場がほしいと言うことだ」

「でしょうね。でも、わざわざパーティーって」


 ティーダが苦笑した。


「言うほど盛大にやるつもりはないさ。ただ、町の広場を使って、机を並べて、美味しい食事と、お酒、結婚願望のある男女、ほらいい感じじゃないか」

「こんなことを言うのはお言葉ですが」

「なんでもいいたまえ」

「俺に相談する要素あります? 別に、おっしゃるようにやればいいじゃないですか」


 レダは若干戸惑っていた。

 相談があると言われて身構えれば、内容はよくある婚活のお話だ。

 結婚相手が不足しているのは理解しているが、そう頭を悩ませるような問題ではない。


「――実は」

「はい」

「レダに出てほしいという声がある」

「は?」

「しかも割と複数」

「え?」

「というわけで君は強制参加だ」


 どこか他人事のように耳にティーダの言葉が届いた。

 レダは、困惑以上に恐怖し、冷や汗を流す。


(――ルナに、みんなに、殺されるっ!)




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る