21「一週間が経ち」




 聖女ディアンヌが王都から辺境のアムルスに移り住んでから一週間が経過したが、意外とレダたちの生活に大きな変化が訪れることはなかった。

 レダは変わらず、診療所で働いている。

 ミナは学校に通い、ルナたちが診療所を手伝ってくれる。

 唯一、変わったことといえば、ディアンヌが診療所で働き出したことだろう。


 当初、レダとティーダは仮にも聖女を町の診療所で働かせるなど、と渋っていた。

 彼女がこの町で暮らしていくことへの覚悟だと分かっていたが、はいそうですか、と簡単にお任せするわけにはいかない。


 そもそも聖女が町民たちに回復魔法を施すことは滅多にない。

 教会の管理下にある彼女たちが力を発揮するときは、王族関係者や爵位が高い者、または災厄が訪れ人々に困難が襲いかかったときくらいだ。

 しかし、ディアンヌはレダたちに懇願した。


「アムルスの人たちの力になりたいのです。聖女としてではなく、ひとりのディアンヌとして、ミナが誇れるような人間になりたいのです!」


 その願いに負けて、彼女にも診療所で働いてもらうこととなった。

 意外と――などと言ってしまうと失礼になるかもしれないが、彼女はよく働いてくれた。

 怪我に苦しむ人を癒し、血で汚れることを構わず、汗を流して住民のために働いた。

 当初は、聖女という肩書きを持つ彼女とどう接していいのかわからない住民たちだったが、ひたむきな彼女の行動と、誰かに寄り添おうとする優しさを知ると、かつてレダたちにしてくれたように受け入れてくれた。


 この一週間で、ディアンヌは変わった。

 聖女としてではなく、ミナの母親ディアンヌとして、町の人たちと変わらない洋服に身を纏い、彼らと笑い合った。

 そんなディアンヌとミナの距離は、初めてあった頃よりもだいぶ近くなったと思われる。


 遠慮がちに「お母さん」と言っていたミナだったが、今では自然とディアンヌを呼べるようになっていた。

 ディアンヌも同様に、ミナへの遠慮が少しずつ無くなっていった。

 ミナだけじゃない。

 レダを「ディクソン様」と呼ぶことをやめ、「レダさん」と親しみを込めるようになった。

 ルナをはじめとする他の家族たちにも同様だ。

 とくにルナの母エルザとはすっかり打ち解けたようで、友人として親しくしているところをよく見かけるようになった。


 そんなディアンヌは、今日は診療所にいない。

 学校で、魔法学科に移ることとなったミナに付き添い、担当してくれる教師に挨拶をしに行ったのだ。

 予定ではレダが一緒するはずだったが、ディアンヌが母親として教師と話をしたいと言い、いい機会だと思ったので託した。


 親の役目がひとつ減って寂しいと思う一方で、ミナとディアンヌが親子としてちゃんと関係が築けていることを喜んでいる。

 まだぎこちないところはあるものの、もうすっかり親子だ。


 いずれ誰もが彼女たちを見て、自然と親子だと思う日がくるはずだ。

 そんな日が少しでも早く訪れるといい、そう思うのだった。



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