17「レダと聖女」⑤




「えっと、家族にってどういう意味ですか?」


 想定していなかったディアンヌのお願いに、レダは少々困惑気味だ。

「家族」だっていろいろある。

 血の繋がりもそうだが、繋がっていなくても家族になれる。

 レダにとって、血の繋がりは重要ではない。


 ミナとルナはもちろん、エルフのヒルデガルダも、勇者のナオミもかけがえのない家族だ。

 辺境伯令嬢のヴァレリーも、王女のアストリットだって大切な家族だ。

 他にも同僚のネクセンや、ユーリ、いや、町の人たちが皆優しく家族同然とも言える。


「どのような形でも構いません。どうぞ、ディクソン様たちご家族にわたくしをお加えください。もちろん、妻としてお迎えいただいても構いません」

「あ、それは結構です」

「……そうですわよね。図々しいお話でした」

「ああ、違います、ディアンヌ様が嫌とかではなく、別に奥さんになってもらう必要はありませんってことです」


 レダは先日、ルナをはじめ、好意を寄せてくれる女性陣を、女性として異性として意識していると言ったばかりだ。

 だというのに、別の女性を、しかもミナの母親を奥さんです、なんて連れて行けるわけがない。

 みんないい顔はしないだろうし、長女は間違いなく修羅る。


「聖女様相手にこんなこというのもあれですが、ディアンヌ様はミナのお母さんですから、もう家族だと思います」

「……ディクソン様」

「あとは、俺とどうこうではなく、ミナのことを第一に考えていただければ嬉しいです」

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」


 ふぅ、とレダは大きく息を吐き出した。

 内心、こんな綺麗な人が奥さんに、なんて想像をしなかったわけではない。

 男として、その申し出にちょっと顔がにやけてしまいそうにもなった。


 だが、ちゃんと愛情があって結婚しないと、虚しいと思うし、寂しくもある。

 ルナたちをはじめ女性陣に誠実に対応したいレダとしては、そもそも奥さんになる提案をされたことさえ知られたくなかった。


「今後のことをお尋ねしてもいいですか?」

「はい。今後はこの町に滞在を」

「あ、いえ、そうではなく、いつミナと会いますか?」

「……それは」


 ディアンヌが躊躇いを見せた。

 娘に会いたくないわけではないだろう。おそらく、会ってどうすればいいのか、わからないのかもしれない。


(十二年、まともに会ってないんだから無理もないか)


「少し、お時間を……いえ、なんでもありません。ディクソン様さえよろしければ、今からでもミナにお会いしたいです」

「わかりました。では、家にいきましょう」


 レダの言葉に、覚悟を決めた目をしたディアンヌが静かに頷くのだった。



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