12「レダと聖女」③





 聖女ディアンヌたちは、滞在先であるローデンヴァルト辺境伯の屋敷の中に移動した。

 家人たちが並ぶ玄関を抜けて、客間の中でも最上級の部屋に通された。

 聖女は荷物をお付きに部屋まで運ばせると、レダとふたりで話をしたいとティーダに願った。


 ティーダがこちらを伺ってくれたので、受け入れる意味合いを込めて頷いた。

 そして、今、応接室を借りて聖女と一対一で向かい合っている。


「こうしてディクソン様とふたりきりでお話をしたいと思っていました」


 ディアンヌの声はどこかミナに似ていた。

 改めて、彼女のことをしっかり見る。

 一見するとすらりとした体躯だが、出るところはしっかりと出ているスタイルの良さがわかる。

 背筋は伸び、紅茶を手に取り口に含む姿も、どこか上品さを感じさせた。

 こちらを見て、にこりと微笑む姿は、年齢以上に若く見え、二十代前半にも伺えた。


(ミナが大人になれば聖女様のようになるのかな?)


 今でもかわいらしいミナがディアンヌのように美しくなれば、さぞ将来モテるだろう。

 父親としては悪い男が寄ってこないかと気が気ではない。


「ディクソン様……そう見られてしまうと、照れてしまいます」

「――も、申し訳ございません!」

「いえ、恥ずかしいだけでいやではありませんわ。もしかして、わたくしとミナのことを比べていたのでしょうか?」

「……はい」

「ミナ――わたくしと娘は似ていますか?」

「雰囲気は少し違いますが、ええ、似ていると思います」

「それは嬉しいです。あの子に最後に会えたのは、生まれたばかりのときですから。あれ以来、ずっとどんな子に成長したのか、いえ、そもそも生きているのかさえ心配していました」


 話題がミナのことになったので、レダも覚悟を決める。

 ディアンヌを真っ直ぐ見て、はっきりと口にした。


「ディアンヌ様とミナのことで話したいことがたくさんあります」

「はい。わたくしも、ミナのことをディクソン様とお話したいですわ」

「不躾な質問もするかと思います。ご不快になられることもあるでしょう。ですが、俺はミナの父親としてあなたに聞かなければならないことがあるんです」

「わかっていますわ。それにしても、父親ですか」

「問題でもありますか?」

「いえ、ミナはとてもいい方と巡り合えたのですね。そのことに感謝しますわ」


 そう言ってディアンヌは微笑んだ。


「まず、聞かせてください。ディアンヌ様、あなたはミナとどうしたいのですか?」

「なによりも会いたい。会って抱きしめたいのです。わたくしが母だと告げ、今まで離れていたことを謝罪したく思っています」

「そうですか……そのあとはどうするつもりですか?」

「――はっきりと申し上げてもよろしいでしょうか?」

「ぜひお願いします」

「わたくしのことをミナが受け入れてくれるのであるなら、母としてそばにいたいと思っていますわ」

「それは、つまり」

「はい。わたくしはもう教会に戻るつもりはありません。アムルスに永住するつもりで、参りました」


 ディアンヌの覚悟に、レダは思わず目を見開くのだった。




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