11「レダと聖女」②
アムルスの町にあるローデンヴァルト辺境伯家の裏口に、ひっそりと馬車が止められた。
馬車を取り囲むのは腕の立つ冒険者たち十数名。
中にいる人物が要人であることを思わせるには十分だった。
レダは、ティーダとともにアムルスにやってきた聖女ディアンヌを出迎えるために待っていた。
お忍びとはいえ、領主であるティーダに黙ってアムルスへ来訪することはできず、連絡は取り合っていたようだ。
その連絡の中で、聖女ディアンヌはレダとの面談を要求していた。
いや、一目だけでも構わないのでお会いしたい、という要望だった。
ティーダからその旨を伝えられたレダにとっても、ディアンヌは会いたい人物だった。
なんせ愛娘ミナの実母だ。
血の繋がりがなくとも父親であるレダが会わないわけがなかった。
緊張気味のレダと、屋敷の主ティーダとその家族、護衛のテックスと辺境伯家の家人が見守る中、馬車の扉が開く。
――ごくり、とレダが唾を飲んだ。
「お出迎えありがとうございます」
決して大きくはないが、よく通る澄んだ声が日々、馬車の中から二十代後半の女性が降りてきた。
すらりとした体躯と、そよ風に靡く癖ひとつないブロンドヘアー、優しげな容姿を持つ彼女は、どこか品のある女性だった。
(――でも、やっぱりミナに似ている気がする)
元気いっぱいのミナの雰囲気とは違うが、聖女から感じ取れる印象の中に、ミナと似通ったものを感じた。
「ようこそ、聖女殿。私は、ティーダ・アムルス・ロンーデンヴァルトです。お見知り置きください」
「はじめまして、ディアンヌと申します。ローデンヴァルト辺境伯様をお便りするように、国王陛下からご助言いただきました。この度は、急な来訪になってしまったことを謝罪致します」
「いいえ、このような辺境の地に聖女殿に足を運んでいただけたことを光栄に思います」
ティーダが代表して、挨拶をする。
レダたちも、彼に倣い頭をさげた。
「これからこちらでお世話になります。もしお役に立てることがあればなんなりとおっしゃってください」
「いえ、お気遣いありがとうございます」
「その、ローデンヴァルト辺境伯様……前もってお願いしていたことはどうなったでしょうか?」
「そのことでしたら――レダ」
「は、はい!」
「こちらへ来てくれ。聖女殿にご挨拶を」
ティーダに名を呼ばれ、上擦った返事をしたレダが前に進む。
そして、聖女に向かい深々と頭を下げた。
「この町で治癒士をしています、レダ・ディクソンです。お初にお目にかかります、聖女様」
「――あなたが、レダ・ディクソン様ですのね」
「はい」
「わたくしのことはどうかディアンヌとお呼びください」
「し、しかし、それは、ご不敬になるのではないでしょうか?」
彼女が自分にどのような反応をするのか、やや警戒しているレダに対し、ディアンヌは穏やかな笑みを浮かべて、彼の手を取った。
「せ、聖女様?」
「ディクソン様、あなたには心から感謝しております。わたくしの娘を助け、愛情を持って育ててくださった。あなたのような人に救われ、娘はとても幸せでしょう」
「……ありがとうございます」
「これからはわたくしのことも家族として扱っていただければ光栄です」
「い、いえ、その」
「ご迷惑でしたか?」
「迷惑というわけでは、あの、とりあえず、手を」
「し、失礼しました。ディクソン様とお会いしたかったため、はしたないことを」
笑顔を絶やすことなく、手を離してくれたディアンヌに、少なくとも友好的な態度を示してくれることをレダは安堵しつつも、
(とりあえず、敵意や警戒心は感じられない。だけど、ミナの話になったらどう出てくるのかわからない。気を引き締めていかないと)
まだまだ気を抜けないレダだった。
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