9「ミナの気持ち」
「みーつけたっ」
ルナは、町外れにある河原にしゃがみ込んでいる妹を見つけると、隣に腰を下ろした。
夕暮れの河原はオレンジ色に染まり、色鮮やかだ。
そんな場所に、ひとり暗い雰囲気の少女がいるのだから嫌でも目立った。
「おねえちゃん」
「もう、ミナたら。急に走り出すからびっくりしたじゃない」
「ごめんなさい」
「パパにもちゃんと謝るのよ。でもね、ミナの気持ちはわかるわ」
「え?」
ルナの言葉に、ミナが顔をあげる。
妹に向かって、笑って見せる。
「あたしだって、ママと散々やりあったもの。一瞬、本当に殺してやろうかと思ったことだってあるわ。だって、本当に話を聞かないんだもん」
でもね、とルナがミナの頭を撫でる。
「あんな頑固な人とでもあたしはわかりあえたわ。今じゃ、ママなんて呼んでランチを一緒にとるのよ。人間関係なんて、意外とどうにかなるものよ。ま、でも、いきなり母親が見つかったなんて言われたら困るわよね」
「――うん」
「しかも聖女って、どうすればいいのよって感じよね」
ミナが頷く。
「でも、母親がいることが嫌なんじゃないんでしょう?」
「……うん」
「じゃあ、なにが不安なの?」
「おとうさんと、おねえちゃんたちと離れ離れになるんじゃないかって思っちゃったの」
「どうしてそう思うの?」
「わからない。でも、おかあさんが王都からくるなら、わたしはどうすればいいの? おかあさんと一緒に王都にいくの? それともおとうさんとこの町で暮らしていていいの?」
「いいに決まっているじゃない」
涙ぐむ妹の体をルナは力強く抱きしめた。
ミナの不安はよくわかる。
ルナだって通った道だ。
妹しか血の繋がった家族がいないと思っていたところに、産みの親が現れた。
しかも愛しの人と引き離そうとまでする。
不安だったし、それ以上に怒りが湧いた。
「あのねぇ、まだミナのママがどんな人かわからないんだから、今から不安になってたら疲れちゃうわよ」
「でも」
「パパやあたしと引き離そうとしたら、嫌いって言ってやればいいのよ」
「いいの、かな?」
「いいに決まってるじゃない! ていうか、今さら現れて好き勝手なんてさせやしないわ!」
相手が聖女だろうがなんだろうが、ミナが一番大変な時に手を差し伸べたのは他ならぬレダだ。
立場があるのかもしれない、会いに来れなかった事情があるのかもしれない、だが、そんなことミナには関係ない。
あの日、組織から飛び出し、当てもなく彷徨っていたミナを救ったのはレダ・ディクソンだ。
聖女の母ではない。
「それに、ミナの気持ちは決まっているんでしょう?」
「――うん」
「どうしたいの?」
「わたしは、おとうさんとおねえちゃんたちとずっと一緒にいたい!」
「よく言えました。パパにもそう言おう。きっと喜んでくれるわ」
「そうかな?」
「パパが喜ばないわけがないじゃない。今だって、心配して待ってくれているはずよ」
ルナが立ち上がり、ミナへ手を差し出した。
ミナは迷うことなく姉の手に自分の小さな手を重ねる。
「帰りましょう」
「――うん!」
不安があるのはかわらない。
母が生きていると知らされ、この町に向かっていると聞き、動揺もある。
しかし、もうミナの中でどうしたいのかは決まっている。
――大切な家族とずっと一緒にいたい。
ただそれだけだった。
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