46「レダとエルザ」⑦
「ごめんね、ずっと見ていたの」
「そっか」
「パパはきっとあたしに知られたくなかったんだと思うけど、心配だったから」
「ありがとう。それでね、ルナ」
ルナが、自分たちのやりとりを見ていたことを責めるつもりはない。
彼女も立派な当事者だ知る権利があると思う。
レダは、エルザとルナが歩み寄ることができるように、娘にどう声をかけていいのか迷う。
が、意外にも、ルナはそんなレダを安心させるように微笑んだ。
「わかっているから、大丈夫よ。ねえ、おばさん――いいえ、ママ」
「――っ、ルナ? 今、私のことを」
涙に濡れた顔を上げたエルザの顔には驚愕が張り付いていた。
レダも同じだった。
まさか、ルナがエルザのことを「ママ」と呼ぶとは思わなかったのだ。
「ええ、ママって呼んであげたの。あんたも強情よね。適当にパパにはいはいって返事してもよかったのに、ムキになって突っかかって、正直馬鹿なんじゃないかなって思ったわ」
「愚かだと笑えばいい。それが私だ」
「あら、そ。でも、それだけあたしと一緒に居たかったってことでしょ? なら、あたしも少しだけ歩み寄ってあげるわ」
「――ルナ。いいのか?」
エルザが震える声で問うと、ルナは苦笑しつつ頷いた。
「ミナには悪いけど、この人のこともこれ以上放っておけないしね。それに、とってもいいことが聞けたから、あたしってとっても気分がいいの」
「ルナ、いいことって?」
「ふふん。それは後でね、パパ」
ご機嫌なルナが、レダにウインクをしてみせた。
「でね、ママ」
「あ、ああ」
「正直言うと、本気でなかったとしてもパパを殺そうとしたことは許さないわ。まず、それを覚えておきなさい」
「……わかった」
「それと、あたしたちが急に親子になれないことだって、もうわかっているでしょう」
「……ああ」
「じゃ、まずは話をしましょ」
「話を?」
「そ。あたしたちは血の繋がった親子かも知れないけど、お互いに何も知らないじゃない。だから、まずはママのことを教えて。辛かったことも含めて全部。あたしも全部話してあげる。別に時間なんてかかったっていいでしょ?」
「本当に、いいのか」
エルザはルナを見上げて、震える声で問うた。
ルナが苦笑する。
「さっきまであたしのことを無理やり連れて行くって言っていたくせに、今になって急にどうしたの?」
いじわるなルナの質問に、エルザが返答できずに、口を噤んでしまう。
「ふふ、冗談よ。ねえ、ママ」
「なんだ――え?」
ルナは優しく微笑むと、いまだ地面に座り込んでしまっているエルザの体を優しく抱きしめる。
「る、ルナ?」
「ありがとう、ママ」
「――っ」
「あたしのことを産んでくれてありがとう。ママのおかげで、大切な人と出会うことができたわ」
「……ルナ」
「あたしのことを探してくれて、会いにきてくれてありがとう」
「――私こそ、ありがとう。ルナが生きていてくれて、幸せそうで、本当によかった」
はじめて娘と親子らしいことことができたエルザの瞳から、幾筋もの涙が流れて頬を濡らしている。
やがて、エルザは嗚咽をこぼし、ルナに抱きついたまま子供のように泣き始めるのだった。
(――ルナはもう立派な大人だな。子供扱いなんてできないや)
レダは、母親を優しく抱きしめている愛娘に、そんなことを思うのだった。
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