41「レダとエルザ」②
「仕事が終わったばかりなんだけどな。そっちはこれからが仕事が本番だろ? こんなところで油を売っていていいのかい?」
レダは、診療所の裏手にある空き地で待っていたエルザと向かい合っていた。
軽口を叩いているが、何心ではどんな用事があるのかと警戒している。
「――貴様に頼みがある」
エルザは、レダの言葉を無視して、用件だけを短く口にした。
どこか苛立った顔をしているのは気のせいではないだろう。
「俺に頼み?」
「そうだ。貴様に頼みごとをするのは癪だが、背に腹は変えられない」
「あ、そう。それで、俺になにをしろっているんだ?」
「そう難しいことではない。ルナに、私に従うよう、貴様が命じてくれるだけでいい」
「は?」
「聞こえなかったのか? ルナに、私に従えとお前が命令してくれ。貴様の命令なら、ルナも聞くだろう」
「――ふざけんな!」
エルザの非常識な頼みにレダの感情が爆発した。
「……なにを怒っている?」
「俺は、一度だってルナに命令したことなんてない!」
なにをどう考えれば、ルナに命令していると思われたのか理解できなかった。
普段、そんな傲慢な言動をしているのだろうか、と自分を省みるも心当たりは皆無だ。
「そうなのか? だが、ルナは貴様に従っているではないか」
「ルナは俺に従ってるんじゃない! 家族だから助け合ってるだけだ!」
「言っている意味がわからない。貴様は、ルナの父親として、ルナを従えているのではないか?」
「あんた、本当にどうかしてるぞ! 俺とルナを見て、そんな風にしか思えないのか? なら、こっちに来い! その目を治療してやる!」
激昂したままレダは、エルザに近づき彼女の腕を掴む。
このまま本当に彼女の目だけではなく、頭にも回復魔法をかけてやろうと思ったのだ。
とてもじゃないが、正気ではない。
そう思えてならなかった。
「貴様こそなにを言っている? 親とは子を従えるものだ。私も奴隷となる前は母に従順だった。しかし、ルナにはそれがない。私と離れていたせいだろう」
「あんた……本気で言っているのか?」
「なぜ戯れる必要がある?」
エルザは、レダの疑問を心底分からないとばかりに首を傾げた。
「子は親に従うものだ。貴様は違ったのか?」
「俺の親は、血の繋がりこそなかったけど、優しくて素晴らしい人たちだった。お前のように、従わせようなんてしたことなんて一度もない!」
「そうか、貴様は血の繋がりの大切さを知らないようだな。だとしても嘆かわしい。たとえ親なら、子を厳しく導くのが務めだ。従わせず、放置した結果が、お前のような人間が育つ」
明らかな侮蔑の言葉だった。
「俺の両親を馬鹿にしているのか?」
レダ自身のことならどうとでも言われても構わない。
しかし、エルザが会ったことのない両親への侮辱はとてもじゃないが許せるものではない。
「馬鹿になどしていない。愚かだと言っているだけだ」
「――お前」
「まあ、貴様のことなどどうでもいい。私からの要望はひとつだけだ。貴様が、ルナに私の言うことを聞くように命令しろ。そうすれば、私はルナを連れて行ける」
傲慢に言葉を重ねるエルザに、レダははっきりと言った。
「――嫌だね、出直してこい」
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