37「ルナとエルザ」②
「おばさんと話すことなんてないんですけど」
ルナの声音は、レダたちといるときよりも冷たかった。
エルザにもそれがわかっていたのか、悲しげに顔が歪む。
「母と娘で、邪魔者を入れたくないんだ」
「その邪魔者っていうのは、パパたちのこと?」
「そうだ」
「あ、そう。おばさんには邪魔者かもしれないけど、あたしにとっては大切な家族なんですけど」
ルナにとってレダやミナたちは掛け替えのない家族だ。
そんな大事な人たちを『邪魔者』と一括りにしたエルザに対する、ルナの心象はすこぶる悪かった。
「お前の家族は私だけだ。あの者たちではない」
「あのね――はぁ、これってまた堂々巡りになるだけじゃない。やめましょ」
そう言って、ルナはエルザに背を向けた。
しかし、エルザが止める。
「待て、ルナ。頼む、待ってくれ」
「……なにを待っていうのよ?」
「私と話をしてくれ」
「おばさんと話すことなんてないって言ってるじゃない」
「私にはある」
頑ななエルザの態度に、ルナは嘆息した。
正直なところ、こんな人を相手にしないでさっさと愛する家族のいる家に帰りたい。
だからといって、家までついてこられても迷惑だった。
「そもそもなにを話すの? 話してどうするの? おばさん、愛なんていらないって言ったんじゃない。なら、親子の愛情もないでしょ。なら、私に用なんてないじゃないの」
「確かに愛などない。だが、母親が娘を想う情くらいはある。それを愛と呼ぶのならそれでもいい、私を遠ざけないでくれ」
「はぁ」
ため息まじりで考える。
もしも、この場にレダがいたら話くらいは聞いたはずだ。
ルナはそう思い、この場に嫌々ではあるが踏みとどまった。
「じゃあ、少しだけ相手してあげる」
「感謝する」
「で、あたしになんの用なの?」
「私と一緒に冒険者をしないか?」
「は?」
ルナは自分の耳を疑った。
驚くルナに構わず、エルザが続ける。
「ルナが、この町の生活を気に入っていることは知っている。あの男や妹たちとの日々も、だ」
「それがわかっているなら、あたしが冒険者なんてなるわけないってわかっているでしょ」
「ならば、お前はあの小さな診療所で一生手伝いをして生きていくとでもいうのか?」
「それのどこが悪いの?」
「お前には戦いの才能があると聞く。ならば、その長所を生かし」
「待って。あのね、あたしはそういうことに興味がないの」
「……ルナ」
ショックを受けたような声を出すエルザに、ルナは呆れる。
(どうしてあたしが、冒険者にならないといけないのかしらね)
「あのね、おばさんは冒険をしながら人助けをするのが気持ちいいのかもしれないけど、あたしは他人のために何かすることに価値を見出せないの。あたしが戦うのは、いつだって大切な家族のためよ」
「私は家族ではないというのか?」
「血の繋がりだけじゃ、家族とは言えないわ」
「そんなにあの血の繋がらない家族がいいのか?」
「相変わらず嫌な言い方しかできないのね。でも、そうよ。あの家族がいいの。ていうか、おばさんさ、なんか勘違いしていない?」
「勘違いだと?」
ルナはわざわざ説明してやるのが面倒だったが、いい加減、エルザとの会話を終わりにしたかったのでうんざりした様子で口を開いた。
「あんたとあたしが血の繋がりのある親子かもしれないのはいいとして、どうして一緒に冒険者をしないといけないの?」
「ルナ、それは」
「あたしには今の生活もあるし、愛する人たちがいるのよ。そのすべてを捨てて、自分の望むままにあたしを冒険者にしようとするなんて、それが親のすることなの?」
「……ルナ」
とてもじゃないが親を相手にしている気分ではない。
聞き分けのない子供を相手にしているのではないかと錯覚させしてしまう。
もっと幼かったミナだって、こんな人の話を聞かない子ではなかった。
「はっきり言っておくけど、あたしに構わないで」
うんざりしながら、ルナはそう言い放った。
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