35「ユーリの質問」②
「レダはモテる。ルナとヒルデガルダ、ヴァレリー様にアストリット様、あとアンジェリーナも?」
「アストリット様とは友人だよ。あと、アンジェリーナさんは違うでしょ」
「ルナたちのことは否定しないんだね」
「……いくら鈍感でも、あれだけ真っ直ぐに好意を向けられたらね」
ルナをはじめ、女性陣の好意は真っ直ぐでわかりやすい。
いや、わかりやすくしているのかもしれない。
恋愛経験が圧倒的に足りていないレダでも、彼女たちが自分をどう思ってくれているかくらいはわかる。
「でも、へたれだよね」
「うぐっ……はい、そうですね。へたれです」
「自覚があるなら安心。でも、あまり待たせちゃだめだよ」
「そうだね。でも、まだ出会って半年も経ってないんだから、もう少しこの心地よい関係でいたいと思っているんだ」
「それはそれでいいと思う。みんなもきっと同じ。でも、いつか答えを出さなきゃ行けない日が来ると思う」
「そうだね」
遠くない内に、レダなりの答えを出す日が来るだろう。
誰かを選ぶのか、それともみんなを選ぶのか、もしくは誰も選ばないのか。
レダにはまだどうするべきなのか判断できていない。
ただ、彼女たちを泣かせたくないな、と強く思う。
そんなレダの心中を見抜いたのが、ユーリが微笑んで、肩を叩く。
「レダなら、みんなを幸せにできると思う」
「どうしたの急に?」
まさかユーリからそんなことを言われるとは思っていなかっただけに、目を丸くしてしまう。
「レダといるルナたちはいつも笑顔。ネクセンも変わった。僕も、変われたと思う。レダはもっと自信を持っていいよ」
「……うん。ありがとう」
――自信を持つ。
それは、レダにとって一番難しいことだった。
底辺冒険者を何年も続けていたレダには、自信がない。
たとえ、治癒士として成功しようと、町の人たちから「先生」と呼び慕われようと、真っ直ぐに好意を寄せてくれる女性たちがいようと、だ。
こんなレダに苛立ちを覚える人もいるかもしれない。
だが、レダの人生は失敗続きだった。
三十にしてようやく人生がうまくいくようになり、急に自信を持つことは難しい。
油断して有頂天になり、なにか大事なことを失敗するよりは、自信がなくおっかなびっくりしながらも慎重でいたほうがいいと思っている。
(――でも、そろそろ)
少しくらいなら、自信を持ってもいいのかもしれない。
治癒士として診療所を構え、多くの人たちを治療してきた。
自分にみんなを救える実力が備わっていることの自覚はある。
診療所の所長という肩書のおかげで責任感も得た。
もう自由気ままな冒険者ではないのだ。
そろそろ、自分のしてきたことに胸を張り、自信を持って、もっと新しい一歩を踏み出すことができてもいいのかもしれない。
「僕はレダのことが好きだよ。でも、恋愛とかじゃなくて、お兄ちゃんみたいに尊敬してるよ」
「そうなの? うれしいよ」
「だから、お兄ちゃんの未来の奥さんにも興味津々」
「あ、はい」
「頑張ってね、お兄ちゃん」
元気付けるような、からかうようなユーリに、レダは肩の力が抜けて自然と笑顔になった。
「ありがとう、妹」
従業員であり、友人だったユーリと、一歩距離が近づいたと思えたことに感謝するレダだった。
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