33「ネクセンとフェイリン」⑤




「いろいろ面倒をかけてしまったな。私はフェイリンと結婚することになった」


「えへへ、ネクセンちゃんの奥さんになりまーす!」




 アンジェリーナの部屋に、フェイリンと腕を組んで現れたネクセンは、実に幸せそうな顔をしていた。




「おめでとう、ネクセン。フェイリン」




 レダは心からふたりのことを祝福した。


 一度は、心配になる程消沈してしまったネクセンだったが、今は満面の笑みを浮かべて精気に満ち溢れているようだ。


 フェイリンも、先ほどまでは暗い表情だったが、彼女も心からの笑顔だった。




(ふたりがうまくいって本当によかった)




 好きあっているふたりが結ばれないのは寂しすぎる。


 彼らのように、手を取り合い、幸せになるべきだ。




「よかったわねぇ、ネクセン。もうフラれないようにしなさいよぉ」


「うむ。おめでとう、ネクセン、フェイリン。よき家庭を築くといいぞ!」


「ネクセンおじちゃん、フェイリンお姉ちゃん、おめでとう!」




 レダに続き、娘たちもそれぞれネクセンに祝いの言葉を述べていく。


 ふたりは幸せそうに、笑顔を浮かべ、「ありがとう」と返事をした。




「あの、それで、アンジェリーナさん……私ね」




 フェイリンが表情を真面目なものに変え、みんなと同じく祝福してくれていたアンジェリーナと向き合う。


 アンジェリーナはわかっているとばかりに、優しげに頷いた。




「わかっていますわ。娼館をやめるのでしょう?」


「はい、許してもらえるのなら」


「もちろんですわ。フェイリン、お幸せになりなさい」


「はい!」




 こうしてフェイリンの引退が決まった。


 結婚で娼婦を引退する者は決して少なくない。


 その後、幸せになれるかどうかは、本人たち次第だ。


 だが、ネクセンとフェイリンなら幸せになれるだろう。


 レダにはそんな確信があった。




「ねえねえ、ネクセンおじちゃん。結婚式ってあげるの?」


「あ、ああ、私はそうしたいが、フェイリンはどうだ?」




 ミナの質問に、ネクセンが婚約者を伺うと、フェイリンは少し戸惑いながら口を開いた。




「いいの?」


「もちろんだ。華やかな式にしよう」


「ネクセンちゃん! ありがと!」




 結婚式までできると思っていなかったのか、フェイリンが破顔してネクセンに抱きついた。




「お、おい、みんなが見ているではないか」


「でもでも、私嬉しくって!」


「ふふ、しかたがないな」




 口では照れたようなことを言いつつも、ネクセンは満更でもないように、フェイリンの身体を抱きしめ返す。


 そんな幸せそうなふたりを見て羨ましそうにしていたルナが、レダに近づき彼の腕に抱きついた。




「ねーえー、パーパっ」


「なにかな、ルナさん」


「あたしたちの結婚式はいつにするのぉ?」


「その予定はないかなぁ」


「ぶーっ、いけずぅ」




 隙あらばアプローチしてくるルナの頭を撫でると、彼女は不満そうに頬を膨らませた。




「そうだぞ、ルナ。あまりレダを困らせるものではない。で、レダ。人間式とエルフ式のどちらで結婚式を挙げたい?」




 続いて、空いている腕に絡みついてきたのはヒルデガルダだった。


 彼女は平らな胸を精一杯腕に当てているのだが、レダにはいまいち伝わっていないようで、苦笑いするだけだ。




「うん。ヒルデとも結婚式を挙げる予定はないかなぁ」


「では、レダ様と結婚式を挙げるのは私ということで」


「……アンジェリーナさんまで」


「あら。レダ様がよろしければ、私はいつでも構いませんわよ」




 アンジェリーナもからかっているのか、本心なのかわからない笑顔でレダにそんなことを言う。


 そのせいで、ルナとヒルデガルダが眉を釣り上げた。




「ちょっと! パパに手を出さないでくれますぅ! パパはあたしのものなのですけどぉ!」


「せめて、私たちのものだと言え、ルナ!」


「もう、いじわるですわ。私も仲間に入れてくださってもいいじゃありませんか」


「あんたが入ったら、そのテクで骨抜きにするつもりでしょ! そうはさせないわよ!」




 騒ぎ始めた三人に囲まれてレダは、困った顔をすることしかできない。


 そんなレダに、フェイリンと笑っているネクセンと、姉たちに笑顔を向けているミナが口を揃えた。




「レダ、お前たちは相変わらずだな」


「パパ、モテモテだねっ!」




 レダはがっくりと肩を落とすのだった。








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