22「ネクセンの恋」②
「やはり、お前は違うな。かつての私の同僚たちなら、娼婦などやめておけと言うだろう。釣り合わない、と」
「そんなことを言われたことがあるのか?」
問うと、ネクセンは過去を思い出し苦い顔をした。
「この町に来る前のことだ。花屋の店員に恋心を抱いたことがあったが、周りに猛反対されて想いを伝えることさえできずに終わったことがある」
「そんなことがあったのか」
「同僚たちは言った、治癒士には治癒士にふさわしい相手を選ぶべきだ。自分たちは、一般人とは違う存在なのだ、と。そう言われて私は思った――治癒士にふさわしい女性とはどんな人なのかと」
「治癒士にふさわしいとか、ふさわしくないとか、そういうのって関係ないだろ」
「私もそう思った。だが、当時の私は、周りに流されてしまった」
「後悔しているのか?」
「している」
「なら、今度は後悔しないようにしろよ」
「……ディクソン」
「好きな人に好きだということの何が悪いんだ。本気なんだろ?」
ネクセンは力強く頷いた。
「彼女はとても心の綺麗な人だ。私がこの町で嫌われていることは知っている。それ相応の振る舞いをしていたのだから無理もない。だが、フェイリンだけは、そんな私を笑顔で受け入れてくれたんだ」
「いい子なんだな」
「最初は、金払いのいい客だから愛想よくしているだけかと思ったが、彼女は裏表のあるような子ではなかった。体の弱い親のために娼婦をしているのに、笑顔を絶やさない、明るく、優しく、尊敬できる子だ。私の性癖も笑って受け入れてくれる度量がある」
「――あー、うん、それはすごいね」
かつてネクセンと娼館で出食わしてしまったとき、彼は十代の少女を「ママ」と呼ぶプレイをしていたことを思い出し、レダは引きつった笑みを浮かべる。
彼の性壁を受け入れることのできる少女は、よほど心が広く、優しいのだろう。
「今日、フェイリンが怪我をしたと聞いて、心臓が止まると思った。もしかしたら、失ってしまうのではないかとも考えてしまった。だから、私が守ってあげたい。今の私なら、彼女を守ることができると思える」
「守れるさ」
「お前のおかげだ、ディクソン」
「俺の?」
「私がずっと彼女に想いを伝えなかったのは、負い目があったからだ。金のために治癒士になった私だ。今までしてきたことに後悔はない。だが、嫌われ者のの私に告白されたら、フェイリンは困るだろう。もしかしたら、住民から快く思われない可能性がある。それは嫌だった」
「ネクセン、お前」
彼がそこまで考えていたとは知らなかった。
「だからといって、私は生き方を変えることができなかった。そんなとき、貴様が現れた。そして、人生とは面白いものだな。私は変われた。変わることができた。今の私なら、少しはマシになった私なら、フェイリンにプロポーズできる」
ネクセンは足を止めた。
「お前には感謝している」
「やめろよ、くすぐったい」
「私は、明日、フェイリンにプロポーズしてくる。応援してくれるか?」
「もちろんだ。頑張れよ、ネクセン」
彼の肩を叩き、激励するレダに、ネクセンは笑った。
「――ありがとう、レダ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます