13「それぞれの気持ち」①
「……ルナ……どうしてわかってくれないのだ」
見るからに意気消沈しているエルザに、レダは嘆息した。
「ブロムステットさん、あなたは一体なにがしたいんですか?」
「……なに?」
俯いていた彼女が顔をあげ、レダの顔を力ない瞳で見る。
「正直、俺は腹が立っている。お前は、ルナを泣かせるために、この町にきたのか?」
「……な、泣かせるつもりなど」
「ふざけるな! あんな言い方をしたら、ルナじゃなくても傷つくにきまっているじゃないか! お前には人の心がわからないのか?」
「私はそんな人間ではない!」
「どうだか。じゃあ、ルナの現在を否定して、なにがしたかったんだ?」
レダはエルザに対する怒りを抱いていると同時に、呆れもしていた。
あのような高圧的で、傲慢な物言いをしておきながら、なぜお前が悲しい顔をしているんだ、と問い詰めたくなる。
かわいそうなのはルナのほうだ。
「答えろ、エルザ・ブロムステット」
「……私は、私は、ただ……娘と一緒にいたいだけだったのに」
「はぁ……最初に、素直にそれを言うべきだったな。もういい、帰ってくれ」
レダは、冷たく告げると、エルザの拘束を解いた。
もう暴れる気力もないだろう。
「ま、待ってくれ、ルナを」
「今のあの子の状態で、もう一度お前と会えると思っているのか?」
「それは」
「言っておくけど、ルナがお前と一緒にいたいと望むならまだしも、無理やり連れて行かせることだけは絶対にさせない。お前がなにを思おうと、どう言おうと、俺たちは家族だ。それを否定させはしない。もし、否定しようとするなら、それ相応の覚悟をしてから口を開くんだな」
「――じゃあ、私はどうすればいいのだ?」
「俺が知るかよ」
レダの突き放す物言いに、エルザの顔が泣きそうに歪んだ。
「た、頼む、教えてくれ……ルナと一緒にいたいのだ。親子として、一緒に暮らしたい。ただそれだけなのだ」
「……どうして、それを俺じゃなくて、ルナに言ってあげられなかったんだ」
エルザの境遇には同情するものがある。
南大陸で捕らえられ、ウインザード王国の貴族に奴隷として売り払われた。
その後の扱いは――想像したくない。
それでも、ルナが凌辱されて生まれた子どもだとか、売られるために取り上げられたなどと、口が裂けても言うべきではなかった。
平静を装っていたが、間違いなくルナは傷ついたはずだ。
ましてや、現在のルナを否定するようなことも、彼女を取り巻く家族を偽物だと言うことも避けるべきだった。
そんなことを言われてしまえば、エルザに同情していたレダだって、彼女を庇いたくなくなってしまう。
「私は、ただ……ルナと、親子として……」
(泣くくらいなら、はじめからルナにもっと違う態度で接すればよかったのに)
いつしか涙を流しはじめたエルザに、どうしたものかとレダは大きなため息を吐くのだった。
(悪いけど、今は、この人にいつまでも構っていられない。俺は――ルナが心配だ)
レダはエルザをしばらく自由にさせておくことにした。
今さら敵意を剥き出しにして暴れることはないだろうと思ったのだ。
そんなことをすれば、ルナへの悪印象が加速するだけだ。
そのくらい、今のエルザでもわかっているはずだ。
(頼むから、これ以上揉める原因を作らないでくれよ)
内心、そう祈りながら、レダはルナの様子を見に行くことにした。
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