7「襲撃者とその驚くべき正体」①



「えっと、どちら様ですか?」




 戸惑いを覚えながら、必死に声を絞り出したレダに向けられたのは女性からの明確な敵意だった。




「御託はいい、その娘を私に渡してもらおうか?」


「――なんだって?」


「聞こえなかったのか? その娘を私に渡せ」




 女が指を指したのはレダと腕を組む、ルナだ。


 なぜ女がルナを求めているのかわからないが、いきなり現れ、敵意を向けられて、はいそうですか、と承諾できるはずがない。




「理由もなく、そんなことできるわけがないだろう」


「……ならば少々痛い目に遭ってもらうとしよう」




 と、女が地面を蹴って、肉薄してきた。


 急すぎる展開に、レダは驚きながらも、ルナの腕を解き応戦するために拳を握った。


 女がレダの懐に入ると、鋭い拳を放ってくる。


 紙一重で避けると、女を捕まえようと手を伸ばしたが、するりと抜けられてしまう。




(――やり辛い!)




 女がどこかルナに似ていることもあり、殴る蹴るなどの直接的攻撃ができなかった。


 レダの甘さが出てしまったのだが、女はお構いなしに攻撃してくる。


 腰に差しているサーベルこそ抜かないが、放たれる拳は確実にレダにダメージを与えようとしていた。




「くっ――ああっ、もう!」




 繰り返される攻撃に、レダも次第に苛立ってきた。


 同時に、女の攻撃がレダに当り始めてしまった。




「――ぐっ、がっ、はぁっ」




 顔に、胸に、腹部に、連続して拳が当たる。


 動きを止めてしまうほどではないが、痛みが蓄積し、レダの反応が鈍くなっていく。




「パパ!」




 ルナの悲痛な声があがるが、彼女を安心させることすらできないまま攻撃が続く。




「そろそろ終わらせてもらおう」




 どんっ、と女の渾身の一撃がレダの腹部を捕らえた。




「――かはっ」




 酸素が口から漏れ、呼吸が止まる。


 地面に膝をつき、そのまま前のめりに倒れ――そうになって、奥歯を噛み締めて止まり、女の手を掴んだ。




「捕まえたぞ」


「こ賢しい。だが、私の腕を掴んだだけでどうするつもりだ? 先ほどから、貴様は私にまともに攻撃をしてこない。舐めているのか?」




 腕に力を込めながら女が苛立った声を出す。


 レダは無視して、女を睨みつけた。




「まさか白昼堂々と人攫いをしようだなんて……誰の差し金かな?」


「私は人攫いではない! 私は、私の意思でその娘を連れて帰る。それだけだ」


「させると思っているのか?」


「攻撃も満足にできない貴様が止められると思っているのか?」




 睨み合うふたりが、再び戦おうと動こうとした。


 そのとき、




「パパから離れなさいよ! パパが戦えないなら、あたしが代わりに戦ってあげるわぁ」




 ナイフを構えたルナが、レダと女の間に割って入った。


 押され気味のレダを見ているのがもどかしかったのだろう。


 彼女の表情は怒りに満ちている。




「よすんだ、ルナ!」


「でもっ! パパったら、戦いづらそうじゃない!」


「それでもだよ! ルナが戦う必要はないんだ!」




 レダはなぜかわからないが、ルナを女と戦わせたくなかった。




「頼む、ルナ。やめてくれ」


「でも」




 レダの懇願に、ルナの表情が曇る。


 しかし、それでもナイフを構えた手を下げようとはしなかった。


 すると、女がルナに言葉をかける。




「ルナよ、私はお前と戦うつもりはない。剣を治めてほしい」


「――っ、どうして誘拐犯があたしの名前を知っているのよ!」


「私は誘拐犯なのではない! そのような下衆な行為を一度たりともしたことはない!」




 誘拐犯扱いされ、怒声をあげた女は敵意を散らし、構えていた拳を下ろした。


 その行為にルナに困惑が浮かぶ。




「ルナよ。なぜわからない?」


「は? なに言ってるの?」


「私を見て、なにも思うことがないのか?」


「意味わかんないんですけど、おばさん、どういうつもり?」


「私は、一目見ただけですぐにわかったぞ」


「だから、なにが」




 戸惑いながら、一歩引いたルナに女は告げた。




「愛しい、私の娘よ。私が、お前の母親だ」


「は?」








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