6「心配性のパパ」②
「冗談だって、本音を言えば寂しいけど、ミナの幸せを壊そうなんて思っていないよ」
「本当ぉ?」
「本当だって。でも、まだミナは子供だし、ちゃんとした相手じゃなかったら傷ついてしまう可能性だってあるから心配だしさ」
「本音は?」
「ミナに彼氏なんてまだ早い!」
「……パパぁ」
「ごめんなさい」
呆れ顔のルナに、レダは素直に謝罪した。
「でもぉ、パパはミナに彼氏はまだ早いって言ってるのに、ケートのことはいいのよねぇ」
「あの子は、ほら、片思いしているだけだから」
「脈なしだからいいってことなのねぇ。パパひどーい」
そう言いつつもルナも納得したように頷く。
エルフの少年ケートは、ミナのよき友人だ。
そのため、どうも恋愛対象として見られていないようだった。
当のケートは、初恋相手のミナと関係を深めたいらしいようだが、今一歩踏み込めずに友達ポジションに甘んじている。
「ミナからすると、初めての異性の友達で固定されているから安心だよ。いや、ケートはいい子だから、将来的にミナの彼氏にと言われても反対はしないけどね。将来なら、うん、将来ならね」
「パパったら、結局、今は誰がミナの彼氏でも反対なわけね」
「……はい」
「ふふふっ、そんな情けないパパのことも好きよぉ」
でも、とルナが微笑んだ。
「ミナのことばかりじゃなくて、あたしのこともちゃんと見ていてね?」
「善処します」
「よろしい。じゃあ、診療所に帰りましょ。もう往診は終わったんでしょ?」
「そうだね。ミナのことも気になるけど、いつまでもここにいるわけにはいかないからね」
「あたし、嫌よ。捕まったパパを迎えにいくの」
「ははははは。大丈夫だって、捕まるようなヘマはしないよ」
「あのね、そうじゃなくて。パパ、この町で有名人なんだから逃げ切っても診療所に自警団が来てお縄よ」
「……あははは、冗談だよ。俺もそこまで考えないしじゃないから。さ、ちょっとお店で甘いものでも食べてから帰ろうか」
「やった! パパ最高!」
ふたりは枝から飛び降りると、自然に腕を組む。
レダは否定するかもしれないが、親子というよりも歳の離れたカップルにも見える。
おそらく、成人を機にルナが大人びたせいだろう。
「早く行こ、パパ!」
「はいはい。そんな急かさなくてもお店は逃げないから」
嬉しそうに微笑んで、腕を引いてくる娘に、ついレダの頬も緩んでしまう。
ふたりは学校から離れ、大通りに向かっていく。
「おい、貴様」
だが、そんなとき、背後から何者かに声をかけられた。
「はい?」
反射的に返事をして振り返ってしまったレダは、硬直した。
(――誰だ、この人? でも、どこかで見たことがあるような)
振り返った先には、二十代半ばほどの美しい女性がいた。
露出の多めの服から覗く、引き締まった褐色の肌と、顎のあたりで丁寧に切り揃えられたシルバーブロンド。
背丈は小柄だが、背筋がピンと伸びしているので若干高めな印象を与えてくる。
そんな女性が、敵意の宿した目でレダを睨んでいる。
(見覚えはないのに、どうしてあったことがあるような感覚が?)
レダは目の前の女性に動揺を隠せなかった。
これほどの美人なら、一度見れば忘れることはないだろう。
しかし、覚えがない。
こうも敵意を込めた視線を向けられるようなこともしたことはない。
だというのに、どこかで会った気がしてならなかった。
「……パパ?」
「――っ」
ルナに腕を引かれて顔を見ると、不安そうな表情を浮かべていた。
瞬間、レダの疑問が氷解した。
(――この人……ルナにそっくりだ)
目の前の女性は、まるでルナが美しく成長したと思えてしまうほど、よく似ていた。
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