5「心配性のパパ」①
家族たちにミナの彼氏ができた疑惑を打ち明けたレダは、その翌日、往診の合間を使って娘の通うアムルス第一学校を訪ねていた。
訪ねる、といっても来客として校舎内にいるわけではない。
学校のすぐそばにそびえ立つ大木の枝に乗り、身を隠してミナの様子を窺っているのだ。
はっきりいって、不審者だ。
見つかれば、守衛が列をなして飛んでくるだろう。
「ミナの彼氏って誰なんだろう? せっかくだから、突き止めるまで帰らないぞ」
おかしな意気込みを掲げてレダは目を凝らす。
視線の先には、ミナが楽しそうに授業を受けていた。
ときには手をあげて、積極的に授業に参加している様子を見られてレダは大満足だ。
ただし、残念なことに今は授業中ということもあって、ミナといちゃつくような男子は発見できていない。
「どこの馬の骨だ……俺の可愛い娘にちょっかい出そうとしているのは……今日のレダ・ディクソンはいつもよりも過激になるぜ」
「パーパっ」
「うわぁぁああああっ!?」
不意に背後から声をかけられてしまい、飛び跳ねてしまったレダは枝の上から落ちてしまいそうになった。
「あっぶなっ! ――って、ルナ!? なにしてるの、こんなところで?」
「それはこっちのセリフなんですけどぉ」
声の主は、もうひとりの娘であるルナだった。
彼女はホットパンツとキャミソールという露出多めな出で立ちに、シルバーブロンドのロングヘアーをツインテールにしている。
足元はサンダルで、ちょっとお出かけをしている装いだ。
快活なルナには実によく似合っていた。
そんな愛娘はどこか呆れ顔でレダを見ている。
「挙動不審な人がいるからまさかと思ったけど、往診の途中で娘の学校を覗き見とか、ドン引きなんですけどぉ」
「こ、これは誤解というか、なんというか」
「ミナが知ったら怒るかしら、それとも呆れるかしらぁ」
「ルナ、これには訳があるんだ。黙っていたけど、俺は娘を見守る妖精さんなんだよ」
「……アホなこと言うなら、ミナに言っちゃおうかなー?」
「み……ミナには言わないでください」
さすがにレダも覗き見が悪いことをしているくらいの自覚がある。
しかもミナに知られたら、怒るのか、悲しむのか、想像できない。
もしも口など聞いてくれなくなったら、レダの心は砕けてしまうだろう。
弱々しい声で懇願するレダに、ルナがにんまりと笑った。
「それはパパの態度次第かなぁ」
「くっ……なにが目的なんだ」
「そうねぇ。今度のお休みにデートしてほしいなぁ」
「デートならこの間したじゃないか?」
「あれは家族デートだったじゃない! あたしは、恋人のあまーいラブラブなデートがしたいのっ!」
恋人じゃないんだけどな、と言いかけてとっさに口を塞ぐ。
そんなことを言ってしまえばルナの機嫌がたちまち悪くなるだろう。
「わ、わかったよ。だけど、俺からもお願いがある。昨日約束しただろ、ほら」
「わかっているわぁ。ミナに彼氏ができたか聞けばいいんでしょぉ?」
「さりげなくね。本当にさりげなくお願いね。ああ、でも、聞いてもらって彼氏ができたとか言われたらショックが」
「もう……今からそんなんじゃ、ミナが家に彼氏を連れてきたときにどうするつもりなぉ?」
「そのときは、俺の得意魔法が治癒魔法から攻撃魔法に変わるだけだよ」
「ちょ、パパぁ!? 攻撃する気満々じゃない!」
「はははははは。冗談だよ、冗談。そんなことするわけないじゃないか――多分」
「多分とか言わないでほしいんですけどぉ。めっちゃ不安だわぁ」
本気とも冗談とも取れる、曖昧なレダの回答に、ルナは冷や汗を流して引きつった笑みを浮かべるのだった。
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