4「女子会」②



「うむ。レダのああいう一面も、こう心に響くものがあるな。新しい一面を知れてよかった」


「ヒルデちゃんに同感ですわ。子煩悩な一面があると思っていましたが、ここまでとは意外でしたが、おかわいらしかったですわ」




 ヒルデガルダとヴァレリーも、ほう、と熱い吐息を吐いた。


 レダに恋する彼女たちにとって、娘に過剰な反応をしてしまうレダの姿もかわいかったようだ。




「ミナがレダのことを大好きなのはわかっていたけど、レダもミナのことをかなり好きだったのね」




 アストリットの言葉に、もちろんです、と面々が頷く。




「おふたりの関係は、やはり特別ですから。わたくしたちとは違うなにかがありますわ」


「そりゃそうよ。ミナがパパと出会ったからこそ、今のあたしたちがいるんだからぁ」




 レダが王都を離れ、アムルスに向かう道中でミナと出会ったことからはじまり、今の家族の形がある。


 半年に満たない出会いだが、血の繋がり、立場を超えて、ひとつの家族として絆を紡いだ。


 そのすべてが、レダとミナの出会いにあることは、この場にいる誰もがわかっている。




「パパの妻としては妬けちゃうけどぉ」


「ふっ、ルナはまだ甘いな。私はレダの妻として、ミナの母としてすべてを受け入れているぞ」


「はいはい。あたしは若いからそんな歳の功はないんですよーだ」


「失礼なことを言うな! 私はまだ若いぞ!」


「三百歳を超えているじゃないのぉ」


「それでもエルフではまだ若いほうだ!」




 出会ってから何度も繰り返したやりとりを飽きもせずルナとヒルデガルダが続ける。


 ワインを飲みながらだろうか、いつもりよりも女性陣のテンションは高めだった。




「ところで、ミナの彼氏ってどんな子かしら。レダじゃないけどちょっと気になるわよね」




 アストリットがワインを飲み干すと、おかわりをしながら話題がミナの彼氏へ移っていく。




「ふむ……少なくともケートが彼氏だと誤解するほど親しい子がいたということだろう。私が予想するに、彼氏ではなく、ボーイフレンドという感じだろうか?」


「どちらにせよ気になるのでしょう?」




 にんまり、とした笑みを浮かべるアストリットにヴァレリーが苦笑した。




「アストリット様は、こういうお話がお好きなんですね」


「それはそうよ。わたいだって、女だからね。縁がなかっただけで、ちょっとこういう女子トークに憧れていたところはあるわよ。それに楽しいじゃない」


「楽しいのは同感かしらぁ」




 年齢や立場が違えど、彼女たちは間違いなく友人だった。


 そんな彼女たちが集まれば女子トークに花を咲かせるのも必然だ。




「わたくしが思うに、ミナちゃんと親しくなるくらいですから、その男の子はレダ様にどこか似ているのではないでしょうか?」


「あー、そうかもねぇ。ミナの好みってパパみたいに優しい人だしぃ。ほらぁ、やんちゃでガサツな男子っていうのは違うわよねぇ」


「むしろその手の男子は苦手そうよね。でも、ミナと同じような年代なら、みんなやんちゃな子ばかりじゃないの?」


「ケートもエルフの里ではやんちゃだったから、ミナの彼氏になるのは少々難しいかな」




 女性陣はそれぞれミナと親しい男子を想像している。


 が、本人からちゃんと聞いたわけでもなく、話題を持ってきたレダも情緒不安定で要領を得ない。


 半分以上が妄想の産物だった。




「ねえ、ヴァレリー。この町の学校に通う子たちってどんな子なのかしら?」


「そうですわね。多くが、この町に暮らすご家庭の子供たちですわ。他には、アムルスを拠点とする商人の皆様の子供たちもですわ。貴族はお兄様のお子様意外通っていませんわ」


「貴族が少ないのは子供たちにとっていいわよね」


「そうですね。わたくしは王都の学校に通っていましたが、貴族しかいない学校でしたのでいろいろ疲れてしまった記憶がありますもの」


「私もよ。王女なんて立場だと、擦り寄ってくる貴族が多くて鬱陶しかったわ」




 思い出を語るヴァレリーとアストリットだが、その表情はどこか暗い。


 学生ながらに、貴族特有の苦労があったのだろう。




「貴族は大変ねぇ。あたしは学校なんて通ったことないけどぉ」


「あら、じゃあルナは勉強とかどうしていたの?」


「家庭教師がいたわよ。堅っ苦しいおばさんだったけど、教えた方うまかったわ。ミナも同じよ」




 珍しく過去を明かすルナに、ヴァレリーたちが驚いた顔をする。


 ルナは、レダと出会う前のことを話したがらない。


 いや、まだ暗殺組織に囚われの身になっていたときのことは話すことがあるが、それ以前のことを口にしたことは滅多になかった。




「意外だな、ルナがレダと出会う前のことを自分から話すなんて」


「――そうね。お酒のせいでちょっと口が軽くなっているのかも知れないわね。でも」


「でも?」


「もう昔のことだし、気にするだけ無駄かしらぁって。あたしの人生はパパと出会った日からが本番だったんだし、それ以前のことなんて、ぶっちゃけもうどうでもいいわぁ」


「そういうものか?」


「そういうものよぉ。ミナだって昔の話をしないでしょぉ。つまり、あたしたち姉妹にとって、王都で暮らしていたのは過去のことで、もう忘れちゃってもいいことなのよぉ」




 ルナはグラスに残ったワインを飲み干して、湿った唇を妖艶に舐めた。




「それにねぇ、パパと出会ってから毎日が楽しくって、昔のことなんてどうでもいいのよぉ」


「ああ、それなら理解できる。レダと一緒にいると、いろいろなことがあって忙しないと思いながらも楽しく思っている自分がいる。過去など思い出している暇がない」


「つまりそういうことよぉ」




 ルナとヒルデガルダの言葉にヴァレリーとアストリットも同感するように頷いた。


 それぞれが辛く苦しい過去を抱えている。


 一度は死んでしまいたいほど苦しみも、悲しみもした。


 だが、レダに救われ、一緒に生活し、今では当時のことを思い出さなくなった。


 ほんの少し前の出来事でしかないのに、まるで遠い昔のことのようだ。




 それだけレダと一緒にいる日々は色鮮やかなのだ。


 少女たちはそのことを改めて自覚し、レダと出会えたことを乾杯する。


 女子会はその後も盛り上がっていく。


 レダとのこと、診療所のこと、孤児院のこと、王都のことなど、様々だ。


 彼女たちの話題は尽きることなく、真夜中まで盛り上がるのだった。








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