3「女子会」①




「あのねぇ。パパのこと大好きな皆が彼氏作るっていうのもちょっと考えられないけどぉ、パパから離れちゃうとかありえないからぁ」


「そうだぞ。すぐに結婚するような歳でもあるまし、そう慌てるものでもあるまい。大方、中のいいボーイフレンドくらいだろう」




 ルナとヒルデガルダの考えに、ヴァレリーとアストリットも同意するように頷いた。




「わたくしも、ミナちゃんが彼氏を作るというのは少々想像できませんわ」


「そうよね。あれほどレダレダと懐いているのに、あと何年後ならまだしも、今、彼氏なんて作るかしら?」




 四人とも、ミナの彼氏ができたことに懐疑的のようだ。


 しかし、そんな女性陣の声は、あまりレダの耳には届いていないようだった。




「うぅ、どこの馬の骨がミナをたぶらかしんたんだよぉ?」




 半泣きのレダにルナが顔をしかめた。


 そして、彼の近くに顔を寄せると、くんくん、と匂いを嗅ぐ。




「……ていうか、パパ! さっきから変だと思ってたけど、お酒飲んでるでしょ?」


「ちょっとだけ、ちょっとだけだよぉ」


「嘘おっしゃい! すっごくお酒くさいじゃない!」


「だって……飲まないと現実を受け入れられなかったんだから仕方がないじゃないか」


「飲んだところで現実を受け入れているようには見えないですけどぉ」


「――うう、パパ悲しい」


「あ、もうダメねこれ。もうお開きにしましょ。パパがこれじゃ、話にならないわ」




 ルナの提案に反対する人間は誰もいなかった。


 誰しも、レダの今の状態でまともに会話ができるはずがないと思ったようだ。




「ほら、パパ。部屋に戻りましょ。ミナにはあたしからさりげなく聞いておいてあげるから」


「ほんと?」


「ほんと、ほんと。さ、じゃあ、部屋にいきましょ。立って、パパ」


「うん」




 お酒のせいもあるのだろう。


 どこか子供っぽくなってしまったレダは、ルナに手を引かれて自室に戻っていく。


 ルナは、レダの服を脱がし、ベッドの寝かせると、すぐに寝入ってしまった彼の頬に口づけすると、リビングに戻った。




「お疲れ様ですわ、ルナちゃん」


「まったく、パパったらぁ」




 ルナを苦笑で出迎えた女性陣たちだが、解散の気配はない。


 むしろ、これからが本番だと言わんばかりに、ワインやおつまみを用意している。


 つまり女子トークの始まりだった。




「じゃあ、ミナに彼氏ができたことを祝して乾杯でもしようかしら?」


「やめてあげて、パパが泣くから」




 アストリットが子猫のような顔をしてグラスを掲げると、ルナが笑う。




「そうね。酔っ払いが起きてきても困るから、ここは女子会に乾杯しましょう」


「ミナちゃんとナオミちゃんがいませんけど、おふたりは次回お誘いしましょう」


「ミナは酒は飲めないしな。ナオミもナオミで冒険者たちとの飲み会から帰ってこないし、致し方ない」


「じゃあ、乾杯しましょぉ」




 それぞれがワインが注がれたグラスを掲げ、乾杯した。




「あー、パパのこと叱ったけど、お酒おいしぃわぁ」




 成人し、嗜む程度にワインを飲むようになったルナがほんのり頬を赤らめている。


 彼女はレダのようにウイスキーやビールは好まない。


 ワインの、とくに甘口を好む傾向があるようだった。




「うむ。酒は生活を豊かにするのに必要だ。飲み過ぎは感心しないが、嗜む程度なら問題ない。それにしても、これはいいワインだな」




 外見こそ幼い少女だが、飲み慣れているのだろう、ヒルデガルダがワインに舌鼓を打つ。




「お兄様のコレクションから失敬してきましたの」


「あら、そんなことしていいの?」


「お兄様は集めるのが趣味ですからね。ときどきお姉様と一緒に飲んでいるんですけど気づかれたことはありませんわ」


「じゃあ、これからもワイン係はヴァレリーにお願いしようかしら」


「ふふふ、お任せください」




 ヴァレリーは慣れたように、アストリットはちょっとずつワインを嗜んでいる。


 この場にいないティーダは、いつかコレクションのワインが消えていることに気づいて泣く日がくるだろう。




「それにしても、パパったらかわいかったわねぇ」




 先ほどまでのレダを思い出し、染めた頬に手を当てうっとりとするルナ。


 女性たちが同意するように頷いた。






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