2「ボーイフレンド?」②



「ミナに彼氏ができてしまった疑惑があります」




 夜もふけた頃、レダは自宅のリビングで女性陣の面々とテーブルをはさんで向き合っていた。


 レダこそ深刻そうな顔をしているものの、女性たちはどこか呆れ顔だ。




 話題の人物であるミナは、レダが頑張って寝かしつけたのでひとり夢の中だ。


 また、不良娘のナオミは冒険者仲間のテックスたちと朝まで飲むらしいので不在だった。


 なので、この場にいるのは、ルナ、ヒルデガルダ、ヴァレリー、アストリット、そしてレダの五人だった。




「ちょっとパパぁ。ミナに彼氏ができたことを悪いことみたいにいわないでほしいんですけどぉ」




 最初に挙手して発言したのはルナだった。


 彼女的には、ミナに彼氏ができたという真偽はさておき、彼氏ができることが悪いことではないという主張だ。




「あんなに素直でいい子だったミナが、彼氏ができたことを俺に黙っているなんて……どこのどいつだ!」


「聞いてよ」




 ルナの言葉は、どうやらレダの耳には届いていないようだ。


 レダは今にも泣きそうな顔をして、しょんぼりしている。




「まあ、待て、レダ。ケートが嘘をつくとは思わないが、真偽は確かめたのか? もしかしたら勘違いという可能性もあるだろう?」


「怖くて聞けない!」


「……お前なぁ」


「笑顔で、うん、彼氏できちゃった、なんて言われたら、お父さんの心は折れるどころか、砕けてしまう!」


「駄目だな。これは重症だ」




 どこか呆れた視線をレダに向けて嘆息するヒルデガルドに、女性たちが同意するように頷いた。


 当のレダは、そんなことに気づかず頭を抱えている。




「意外ですわ。レダ様もお兄様のような一面があったのですね。てっきり、ミナちゃんにボーイフレンドができたことを喜ぶと思っていたのですが」


「そうよね。ちょっと意外ね。でも、ちょっと安心かしら。レダも人並みに親だったのね、ふふ」




 ヴァレリーとアストリットは、呆れと同じくらい微笑ましいものを見るような視線をレダに向けていた。




「そりゃ、ミナも友達がたくさんできたみたいだし、いつか彼氏だって……って考えたことはありますよ。でも、早くないかな! まだ十二歳だよっ!」


「いいえ、レダ様。残念ですが、最近の子は早熟ですので、特別早いとは思いませんわ」


「そうよね。町の中だって、年頃のかわいいカップルが手を繋いでいるところを見かけるもの」


「そんな!」




 レダの悲痛な叫びに、ヴァレリーとアストリットが淡々と現実を突きつける。


 レダは今にも吐血しそうな顔をしていた。




「早熟な子は早熟ですわ。未成年ながら働く子も少なくないですし、冒険者として活躍している子もいますわ。結婚こそ成人してからですが、その前に恋人ができても不思議ではありませんわ」


「み、ミナにはまだそういうのは早いんじゃないかなーって」


「というか、どうしてレダはミナに彼氏ができることが気に入らないのよ?」




 アストリットのもっともな疑問に、




「別に、気に入らないわけじゃないんだ」




 レダが消えそうな声で返事をする。




「でもさ、俺とミナが親子になって、まだ半年も経っていないのに、もう俺の元から巣立っちゃうなんて――寂しい」




 結局のところ、レダの持て余している感情は『寂しさ』だった。


 よき親子関係を築いているだけに、いざ娘が離れていくのが寂しくてならない。


 レダの嘘偽りない本心を知った女性陣は、はぁ、と嘆息するのだった。








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