1「ボーイフレンド?」①



 夏の暑い日が続く中、レダ・ディクソンは白衣を腕まくりしてアムルスの町を歩いていた。


 診療所を動力のネクセン・フロウとユーリ・テンペランスという優れた治癒士に任せて、レダは往診中だった。




「先生! この間はありがとうな!」


「レダ先生、この度お店に来てよ、たっぷりサービスするから!」


「娘さんと一緒に、ご飯食べにきてね!」




 そんなレダに住民のみんなから次々声がかけられる。


 レダはそんな人たちに手を上げて返事をしていく。


 住民すべてとはいかないが、この数ヶ月で多くの人たちを治療してきたレダは、気づけばアムルスの住人として、善良な治癒士として今まで以上に認められていた。


 住民たちは、感謝と敬意を込めてレダのことを『先生』と呼んでくれるのだ。


 それが嬉しくて、くすぐったくて、つい口元が緩んでしまう。




「おーい!」




 そんなレダに近づく小さな影があった。




「うん?」


「おーい! レダのおっさん!」




 親しげにレダの名前を呼ぶのは、よく見知った子だった。


 まだ幼さを残す容姿と、尖った耳が特徴の少年だ。


 彼はケート。レダと娘のミナが出会ったエルフの少年だった。




「あれ? ケートじゃないか」




 彼との出会いはアムルスに来たばかりに遡る。


 まだミナとふたりでリッグス親子の経営する宿を間借りしていた頃だ。


 道中で、ケートの父クラウスと母エディートと出会い、モンスターに襲われ負傷していたケートを治療したのがきっかけだった。




 その後、人間と長い間交流を絶っていたエルフたちの集落に案内され、多くの負傷者を治療して、最後にはブラックドラゴンと戦闘まで経験した。


 そのすべてがまるで昨日の出来事のように鮮明に思い出せる。


 エルフの集落でそのとき出会ったのが、今は家族として一緒に暮らしているヒルデガルダ・エデラーだった。




「どうしたんだ、ケート? クラウスが怪我でもしたのかい?」


「違うよ! お父さんは元気だよ!」


「そりゃよかった」




 ケートの父クラウスとはレダは友人関係だ。


 エルフの一部の面々と、アムルスとの友好関係を築くためこの町で暮らしているクラウスたちはなにかと忙しく、都合が合わないことが多いが、時間が合えば酒を飲み交わすこともある。




 現在、アムルスに移住したエルフたちは、独自の織物技術や武器製作などを伝え、同時に人間側の技術を学んでいる最中だった。


 中には、商人に弟子入りして、アムルスの外にいくエルフもいて、今後いろいろな場所でエルフと人間が交流できることを誰もが祈っていた。


 ケートをはじめとした子供たちも交流を目的に、ミナと同じ学校に通っている。




「ケート、サボりかな? まだ学校の時間じゃないか」


「そんなことはどうでもいいんだよっ、おっさん、大変だよ!」


「あのね、せめてお兄さんと……心が折れちゃうよ」


「それこそどうでもいいよ! そんなことよりも、大事件が起きたんだ!」


「大事件?」


「ミナに、ミナに!」




 ミナ、という愛娘の名前に、レダに緊張が走った。




「ミナになにがあったのか? 落ち着いて、ゆっくりでいいからちゃんと話してくれ」




 ケートは、息を整えると、レダに向かって衝撃な言葉を発した。




「ミナに彼氏ができた!」


「――あ?」






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