51「父の怒りと愚者の末路」③
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い」
腕と足を無くし、地面に血を撒き散らしながらのたうち回るオランドを、ザルドックが剣の柄で打ちつけて気絶させる。
「すみません。余計なことだとは思ったんですが、なにかあってからじゃ遅いと思って、つい」
「謝る必要などない。よくぞアストリットを守ってくれた、レダ。感謝する」
出過ぎた真似をしたと謝罪するレダに、ヒューゴは感謝で応えた。
続いて、守られたアストリットもレダに小走りで駆け寄り、頭を下げた。
「ありがとう、レダ」
「いいえ、ご無事でよかったです」
アストリットの無事を確認し、レダは安堵の息を吐く。
すると、レダの背後からミナが飛び出し、アストリットを抱きしめた。
「アストお姉ちゃん! だいじょうぶ? 痛くない?」
「ええ、大丈夫よ。レダが、あなたのお父さんが助けてくれたからね」
「うん!」
アストリットの言葉に、ミナが喜ぶように頷いた。
「お見事でしたな、レダ殿。治癒士として優れているとは存じていましたが、攻撃魔法までお使いになれるとは。このアムルスの町に必要な治癒士でなければ、無理をしてでも我が騎士団にお招きしたかったですぞ」
「あはははは、ありがとうございます。ザルドック様にそう言ってもらえると嬉しいです」
騎士団長自らの褒め言葉に、くすぐったさを覚えて苦笑するレダ。
これでオランドの起こした面倒ごとに終わりが訪れる。
「おっと、止血しておかないと」
気を抜く前に、オランドの処置を思い出しレダが懐から布を取り出した。
「レダ? 治療はしないのか? お前なら切り落とされた腕と足を繋げることができるだろう?」
ティーダの疑問に、レダは首を横に振る。
「試したことはありませんが、おそらくできます。でも、俺は、こいつにそんなことをしてあげる義理はありません。死なないように止血はしてあげますが、それだけでも感謝してもらいたくらいです」
「……そうだな」
「あと、すみません。せっかくの庭が、血だらけになってしまいました」
「気にすることはないさ。むしろ、この男の悲鳴を聞いて、すっきりしたくらいだ」
そんなやりとりをしながら、切断面に丁寧に布を巻き、きつく縛りつける。
少なくとも失血死することはないだろう。
血が止まらないようなら、切断面を焼いてもいい。
「では、オランド殿は自分があずかりましょう」
「お願いします、ザルドック様」
「うむ。任されましたぞ」
笑顔で返事をしたザルドックは、ひょい、と意識のないオランドの体を軽々担ぎ上げた。
「そうそう、ローデンヴァルト辺境伯殿」
「はい」
「申し訳ありませぬが、兵を少々貸していただいてもよろしいか?」
「もちろんです。ランド騎士団長殿に我が兵をお預けします。お好きにお使いください」
「かたじけない」
「これから商人の身柄確保にいかれるのですか?」
「そのつもりです。早いほうがいいでしょう」
「ならば私もご一緒させてください。この町に、王女様に不貞を働こうとする輩がいることが許せそうにありません」
「おおっ、それは心強い。では共に参りましょうぞ! おっと、その前に、オランド殿を閉じ込めておきたいゆえ、お部屋をお借りしたい」
「わかりました。ではこちらに」
ティーダに伴われ、ザルドックが屋敷へ向かう。
途中、両者揃って、国王に頭を下げた。
「国王様、自分とローデンヴァルト辺境伯とで、商人をひっ捕らえて参ります」
「頼んだ。ローデンヴァルト辺境伯、そなたもよろしく頼む」
「はっ」
恭しく礼をするティーダは、レダに視線を向けた。
「この場は頼んだ」
「はい。お任せください」
短く応えると、満足そうにティーダは頷き、ザルドックと共に屋敷の中へ消えた。
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