43「褒美とスカウト」②
「お、俺が、専属の治癒士なんて……そんな」
レダは驚きのあまり、声が震えるのがわかった。
「そう驚くことではあるまい。優れた実力を持つ治癒士を、王族が抱えることは珍しいことではない」
「で、ですが、俺は平民ですし」
宮廷で働く人間の大半が貴族の一員だ。
例外は騎士や兵士たちだが、それでも騎士などは貴族が多く占めている。
もちろん宮廷魔法使いや、治癒士も同じだった。
「そんなことを気にする必要はない。多いとは言わぬが、宮廷に仕える人間にも平民はいる。いや、私個人の意見を言わせて貰えば、身分など本来気にしてはならぬのだよ」
「お、お気持ちには感謝します。俺なんかをそんな買っていただけるなんて。でも、俺はこの町から離れることはできません」
光栄ではあるが、レダははっきりと断りを入れた。
「ふむ。私も、君がこの町に貢献していることは知っている。当初は、君ひとりでずいぶんと大変だったようだな」
「娘が、家族が手伝ってくれましたので、ここまでやってくることができました」
「君のように、善行を躊躇わず行うことのできる人間を私は尊敬する。だからこそ、もっと高みに上がり、評価されるべきだと思っているのだよ」
「……国王様」
レダは再び驚くことになる。
まさか、そこまで国王が自分のことを評価してくれているとは思わなかった。
「先に言っておくが、この話はすでにローデンヴァルト辺境伯にも伝えてある。彼は、君が望むなら、と言ってくれた」
「ティーダ様が?」
「彼の本音は、もちろん君が町に残ってほしいのだろう。だが、同時に、君のチャンスを邪魔したくないと思っているようだ。よい友人を持ったな」
この場にいない、ティーダにレダは感謝する。
「君がこの町からいなくなれば、住民は落胆するかもしれぬ。だが、今は、この町の治癒士たちも協力的だと聞いている。ならば、君の力を私に貸してはくれぬか?」
「……しかし」
「いずれアストリットも王都に戻ることになるだろう。そのときに、レダのような治癒士がそばにいてくれると心強い」
国王は、ただレダに褒美を与えるために王都に招こうとしているわけではないだろう。
おそらく、アストリットのことを考えた結果であると思われた。
レダがいれば、アストリットにまたなにかあったときに救うことができる保険となる。
国王としても、レダを娘のそばに置くことで安心したいのだろう。
気持ちがわからないわけではない。
レダも同じ父親であるからこそ理解できる。
それに、レダにとってもチャンスなのだ。
これだけの機会は早々ないことくらい、レダにだってわかっている。
「改めて、返事を聞かせてくれないだろうか?」
――レダの答えは決まった。
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