42「褒美とスカウト」①



「昨日の今日で、呼び出してしまってすまぬな」


「いいえ、構いません」




 ローデンヴァルト家の応接室で、レダは国王とふたりで会っていた。


 本来なら、国王のそばにいるはずの騎士団長も、廊下だ。


 レダと一緒に来ていた家族たちも、ローデンヴァルト一家と別の場所にいる。


 これは、一対一でレダと話をしたいという、他ならぬ国王の望みだった。




「私は明日にでも王都に戻らなければならない。影武者を立ててきたとはいえ、執務は放置状態なのでな。それに、キャロラインの手伝いもしてやりたい」


「残念です。もっと、この町でアストリット様とご交流してほしかったのですが」


「私も残念だが、昨日、あの後、娘とたくさんの話ができた。あの子が、どれだけ苦しんでいたのか知っているつもりだったが、なにも知らなかったのだと痛感した。だから、決めたのだよ」


「なにをでしょうか?」




 ソファーに腰掛ける国王が、一拍置いて、宣言するように言い放った。




「王都に戻り次第、私の継承者を発表しようと思う」


「――それは、つまり、次期国王を?」


「そうだ。今までそれをしなかったのは、王族貴族のくだらんしがらみがあったからなのだが……もう付き合いきれぬよ」


「……国王様」


「アストリットのことで思い知らされた。後継者選びを勿体ぶっていたせいで、我が子たちが醜く争っている。しかも、煽動しているのは側室たちだ」




 苦々しい顔をする国王に、レダはかける言葉が見つからなかった。




「もともとアストリットが襲われたのも権力争いのせいだ。先日、また襲われてしまったのも、私が王位継承権をアストリットから取り上げていなかったせいでもある」


「……国王様が悪いわけでは」


「そう言ってくれるのは嬉しいが、私は王だ。私の行動には責任が伴うのだよ」




 実際、国王の言う通りなのだろう。


 彼が次期国王を決めなかったせいで、王位争いが起こっているのは確かだ。


 もし、国王が、早い段階で次期国王を決めていれば、少なくとも、アストリットに悲劇が訪れなかった可能性がある。




「都合のいいことだとは承知しているが、できることなら、これからもアストリットと親子として触れ合いたい」


「とてもいいことだと思います」


「そうか、ありがとう」




 アストリットも国王の決断に喜ぶだろう。


 レダは、ふたりの関係がよいものとなるよう祈る。




「さて、ここまでが前置きになる。本題は、君への褒美だよ、レダ」


「俺は、別に、褒美だなんて」


「レダになにもしないわけにはいかない。私の気がすまぬ」




 国王の気持ちはありがたいが、レダは困ってしまう。


 王都で冒険者をしていた頃なら、喜んだのかもしれない。


 だが、今のレダにはほしいものがすべてある。


 大切な愛しい家族、友人、仕事、これ以上望んだら罰が当たってしまう。




「私が考えた君への褒美は――宮廷に仕えるつもりはないかな?」


「こ、国王様!?」


「君を、王族の専属治癒士のひとりとして王都に招きたい」




 国王の口から放たれたのは、レダの想像を超えた褒美だった。






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