37「再会と和解」②



「……ど、どうして、お父様がここに?」




 アストリットが口元を押さえ、動揺を隠せぬまま父を見る。


 彼女の疑問は、みんなの疑問である。


 唯一、レダだけが、国王がアストリットのために辺境のアムルスまで足を運んだことを知っているだけだ。




「あの、国王様。ここは王宮でも、王都でもありません。ローデンヴァルト辺境伯が治めるアムルスの小さな診療所です。ですから、どうぞ、国王様の御本心をおっしゃってください」


「……そう、そうだな。ここには君たちしかいない。ならば、なんの遠慮もせずともいいのだな」




 レダの言葉に、国王は深く頷くと、アストリットをまっすぐ見つめた。


 王女は、わずかにたじろぐも、父の視線を受け止めた。




「アストリットよ。私は、お前の様子を見にきたのだよ」


「――う、嘘よ。だって、お父様は、私のことを見捨てたじゃない」


「違うっ! そうではない、聞いてくれ、アストリット。……確かに私がお前にとった態度は褒められたものではない。先ほど、ディクソン殿にも叱られてしまったばかりだ」


「レダが?」


「そうだ。しかし、言い訳になってしまうが、私は国王なのだ。ときには、その愛情を隠しておかなければならないこともある。だが、今は……」




 国王はおもむろにアストリットに近づくと、彼女の震える体をそっと抱きしめる。




「アストリット、お前を心から愛している」


「……お父様」


「今さら、などと思うかもしれんが、本心なのだ。信じてくれ」




 国王は娘を抱きしめる腕に力を込める。




「お前が光を失ってしまったとき、どうしていいのかわからなかった。もちろん、心配した。嘆きもした。だが、見捨てたことなどない」


「で、でも」


「あのとき、キャロラインを追い落とそうとする人間たちを抑えるので必死だった。それを言い訳にはしない、父親としてなにもできなかったことを謝罪しよう。すまなかったアストリット。しかし、私のお前に対する愛情は本物だ。それだけは、疑わないでくれ」




 力強く、娘を抱きしめ、愛情を示そうとする国王。


 しかし、アストリットはその言葉を鵜呑みにすることが難しいのか、戸惑いの表情を浮かべている。


 レダたちは、親子の間に入るまいと見守ることしかできない。




「お父様……本当に私のことを?」


「もちろんだ。信じることが難しいのは承知している。しかし、私が愛したキャロラインとの間に生まれたお前を愛さないはずがないではないか!」


「信じて、いいのよね? 嘘じゃ、ないのよね?」


「ああ、そうだ。本当だ。私は嘘などつかない。いい父親ではないことは承知しているが、お前をあざむいたりすることだけはしないと約束する。心から愛しているよ、アストリット」


「――お父様!」




 真摯に愛情を口にし続けた国王の本心が伝わった。


 アストリットは戸惑いを捨てて、父を抱きしめ返す。




「ずっと辛い思いをさせてしまってすまなかった。きっと王都に戻れば、私は最も冷たい人間に戻らなければならない、だが、この町にいるときだけは、せめて――」




 和解した父と娘の邪魔をしないよう、レダたちはそっと部屋を抜け出した。


 できることなら、この場にキャロラインもいれば良かったと思ってしまう。


 だが、今は、国王がアストリットを愛していたことを素直に喜ぶ一同だった。




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