36「再会と和解」①
一国の王と重鎮が、揃ってただの治療士に頭を下げている状態が受け入れ難く、レダは固まってしまった。
混乱する思考の中で、とにかく顔だけは上げてもらおうとなんとか口を開こうとした。
そのとき、
「パパーっ! お仕事終わった? そろそろご飯だけ……ど?」
「おとうさん? あれ? 誰、このおじちゃんたち?」
「レダ。まだ片付けが終わらないのか? なんなら手伝って……誰だ、というか、なんだ、この状況は?」
家族たちが二階から診療所に降りてきてしまったのだ。
国王と騎士団長が頭を下げている状況をどう説明したらいいのか悩んだ。
「と、とにかく顔をあげてください! お気持ちはわかりましたから!」
レダの叫びに、国王たちが顔を上げてくれた。
安堵の息を吐き、娘たちに顔を向ける。
「信じられないかもしれないけど、こちらは、この国の国王様と騎士団長様です」
「はぁ!?」
ルナ、ミナ、ヒルデガルダが驚きに目を丸くする。
「いや、あの、本当にこのおっさんが国王と騎士団長なのかわからないけど、そうだったとしてどうしてパパに頭下げてるの?」
「おとうさん偉い!?」
「ふむ。一国の王に頭を下げさせるとはレダも偉くなったな。うん。いいことだ」
「そうじゃなくて! この方は、アストリット様のお父上なんだよ」
レダの言葉に、少女たちがはっとした。
だが、すぐに彼女たちの視線が鋭いものへ変わる。
三人も、アストリットの境遇を知っている。
だからこそ、アストリットの父親が本当に目の前にいるのだとしたら、先ほどのレダ同様に一言もの申さずにはいられないのだろう。
「ふーん。このおっさんがアストリットの父親ってわけねぇ。へー。一度、顔を見たかったのよ」
仮にも国王に、ルナの態度は変わらない。
いや、むしろ悪い。
レダは、いつ国王たちが怒り出さないかハラハラしてしまうも、ルナの態度の理由もわかる。
「ルナ、やめなさい」
「でも、パパぁ!」
「気持ちはわかるよ。俺も、文句を言ってしまったから偉そうなことは言えないけど、やめなさい。いいね」
「はぁーい」
渋々だが、返事をしてくれたルナは、ふんっ、と鼻を鳴らすと、国王から視線を外す。
が、まだ収まりがつかない子もいる。
ミナだ。
「…………」
ミナは国王をじぃっと見つめていた。
無言ではあるものの、ミナの視線は間違いなく国王を責めていた。
「こら、ミナ。やめなさい」
「……うぅ、でも」
「そんなことをしても、アストリット様は喜ばないよ」
「……うん」
アストリットを姉同然に慕うミナだからこそ、国王に思うことは一番あるのかもしれない。
まだ幼いながらも、アストリットの不遇は十分に理解しているのだ。
「さて、この国の国王と騎士団長がレダに頭を下げるとはなにごとだ?」
「それは、その」
「まぁ、待て。その事情を説明してもらう前に、後ろで隠れている者に出てきてもらうといい」
「……まさか」
レダは娘たちの背後にある、部屋の扉を開ける。
するとそこには、ヴァレリーとナオミ、そして、
「……アストリット様」
複雑な感情を浮かべたアストリットが立っていたのだった。
彼女はレダ越しに、父親を見つけると、
「……お父様」
震える声で、父を呼んだ。
「アストリット」
そして、国王も小さく、娘の名を呼ぶのだった。
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