33「来訪者」②
「あー、今日も疲れたなぁ」
診療を終え、椅子に座ったままレダは身体を伸ばしていた。
診察時間は終えたが、まだ冒険者たちが戻っていないときいている。
もしかすると急患が来るかもしれないので、診療所を閉めるかどうか悩む。
すでにネクセンとユーリは帰宅させた。
ここのところ、ふたりには負担を強いていたので、休めるときにしっかり休んでほしいと思う。
それを言うのなら、診療所に休診日がないというのも問題だ。
一応、あることになっているが、レダたちのもとに患者が訪れるので、実質毎日診療をしている。
もしかすると、町の人たちは診療所の休診日を知らない可能性もある。
「休みをつくらないとな……治癒士が増えてくれるといいんだけど、それが一番難しいし」
最近、王都の回復ギルド本部で、以前、アムルスにやってきたアマンダ・ロウが改革を始めていると聞いている。
どんな心境があってそんなことをはじめたのかわからないが、うまくいくことを祈っている。
そうすれば、いろいろな町にレダたちのような治癒士が増え、診療所ができてくれるはずだ。
金銭を気にせず怪我を治療することができる環境が整うことは素晴らしいことだと思う。
「あの、レダ様……」
「ヴァレリー様?」
「もう診察は終わりでよろしいですか?」
「はい。申し訳ありませんが、扉に休診中の札をかけてきてください」
「わかりましたわ。それで、あの、レダ様のこれからのご都合は?」
「えっと、ミナたちがご飯を用意してくれると思うので、上に戻りますけど……なにかありましたか?」
なぜか歯切れが悪いヴァレリーにレダは首を傾げながら、立ち上がり、彼女のそばへ。
熱がないか額に触れるも、特に異常は見かけられない。
「いえ、わたくしは別に病気なのではなく……あの、昼間、レダ様にお客様がおいででした」
「俺にですか?」
「往診中でしたので、そう伝えると、診療が終わったらくるとおっしゃっていて、先ほどからお待ちです」
「どなたですか?」
「それは、その、患者ではないことは確かのですが……」
やはり口籠ってしまうヴァレリーに、どんな人物がきたのか気になるレダ。
「えっと、会ったほうがいいってことですよね?」
「それは是非に! ご迷惑かと思いますが、会わなければあとで大変なことになると思いますので」
「……いったい、誰がきてるんですか。ま、患者じゃなきゃいいんですけど、じゃあ、とりあえず呼んでもらっていいですか? 診療所に応接室はないので、ここでお話ししましょう」
「――わかりました。しばしお待ちください」
一瞬、躊躇いを見せたヴァレリーだったが、頷くと、その来訪者を呼びに行ってくれた。
すぐに戻ってきたヴァレリーが連れてきたのは、ローブを頭から羽織ったふたりだった。
「えっと」
(体格から男性だとわかるんだけど、顔が見えない。誰かな? 身分を隠して、治療の依頼とか?)
憶測ばかりしていてもしかたがないので、レダは挨拶をする。
「どうも。レダ・ディクソンです。この診療所で働いています」
レダが笑顔で手を出すと、体格のよいほうの男性がローブを脱いだ。
「突然の来訪にも関わらず、お会いくださり感謝する」
男性はレダの手を取り、大きく振るう。
彼の年齢は五十代半ばくらいだろうか。白髪混じりの茶色い髪を短く刈り込んでいる。
出立は、体格のいい体に軽装ながら鎧を身につけ、剣を腰に差していた。
その佇まいから、騎士だとレダは推測する。
続いて、もうひとりの男性がローブを脱いだ。
体格のいい男性よりも、若干若い四十代後半の男性だった。
ブロンドの髪を伸ばし、後ろに撫でつけている。
身なりはよく、一目で貴族だとわかった。
(――あれ? この人、どこかで見たことがある気がする。どこだっけ?)
ブロンドの男性に見覚えがあるというか、似た雰囲気の人を知っている気がした。
「自分は騎士団長を務める、ザルドック・ランドと申す。お会いできて光栄だ、レダ・ディクソン殿。貴殿の高名は王都まで届いている」
「ありがとうございま――え? 騎士団長?」
「うむ。未熟の身ではあるが、騎士団長を務めさせていただいている。そして」
騎士団長と名乗ったザルドックにレダは混乱した。
なぜこんな辺境に騎士団長がいるのか、そもそも本物なのか、いったい自分にどんな用事なのか、と目まぐるしく考えてしまう。
そんなレダにザルドックは気にせず続けた。
「そして、こちらにおわすお方は――我が国の国王陛下である、ヒューゴ・ホレス・ウインザード様であられる!」
「…………は? え?」
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