27「刺客」③
「さすがは代々尋問を司るローデンヴァルト一族の当主ですね。頼もしいです」
感心するキャロラインの声に、レダは驚く。
(ティーダ様やヴァレリー様の一族って、そういう役目があったんだ。知らなかった)
思い返せば、ヴァレリーの治療の一件の際、レダを襲った暴漢をティーダ自身が取り調べたことがあった。
彼にとっては得意分野だったのだろう。
ならば、メイドに情報を吐かせるのも任せる他ない。
「あなた方は、部屋で待機するようにお願い致します」
茫然ととり残されていたメイドと騎士に向かって、キャロラインが言い放つ。
すると彼女たちが慌てた。
「お、お待ちください、王妃様! 私たちは、刺客とは関係ありません!」
「我々は王家に忠誠を誓った騎士であります! どうか、信じてください!」
メイドと騎士が膝をついて、そう訴えるも、それを鵜呑みにできるほど警戒心のない人間はここにいなかった。
メイドたちは、ルナとヒルデガルダ、ナオミによって念入りに身体チェックされ、騎士はレダが装備を預かることで武装解除させた。
両者とも武器を隠し持っていないことを丹念に調べたが、ルナ曰く「暗殺者って、別に武器持ってなくても人を殺せるしー。あたしたちが想像もしない暗器を隠し持ってたりするから、安心できないわぁ」とのことなので、部屋に戻るよう強い口調でいい、従わせることにした。
もちろん、メイドや騎士が納得するはずもなく、最後まで潔白を訴えていた。
ときにはレダたちに敵意を込めた視線を送りもしていたが、王族の前で暴れることだけはしなかった。
だからといって、彼らを信用できることはなく、今はローデンヴァルト家に使えるメイドが給仕を行い、冒険者とローデンヴァルト家の兵士が護衛についている。
(ナオミがいるし、最悪なことは起きないと思うけど、あんなことがあったばかりだから警戒はしておこう)
「キャロライン様、アストリット様、メイドの中に刺客はもういないそうです」
「本当ですか?」
「はい。部屋に戻したメイドたちを裸にし、隅々まで調べました」
淡々とそんなことを言うヴァレリーにレダはギョッとした。
(やりすぎって一瞬思ったけど、王族を狙った刺客と一時とはいえ同僚だったんだ。このくらいされても仕方がないかな)
「ま、あたしたちが調べたから、だいたいはわかっていたけどねー」
「うむ。足の運び方や、呼吸の仕方まで、素人だったぞ。もっとも、素人に見せかけていただけという可能性もあったから警戒はしていたが」
ルナとヒルデガルダもそれぞれの意見を口にした。
ナオミは、もう自分のする仕事はないとばかりに、お茶とクッキーを楽しんでいる。
「騎士のほうも、テックス様たち冒険者が念入りに調べてくださいました」
「じゃあ、もう安心ってことですね」
「はい。ですが、警戒しておいたほうがいいでしょう。メイドたち、騎士たちはテックス様の部下の皆様が見張ってくれるそうです」
ヴァレリーの言葉に、レダは安堵する。
信頼するテックスの部下なら、安心して任せられる。
これで再び刺客が襲いかかってくる可能性は減った。
少なくとも、メイドや騎士から刺客は出ないだろう。
「――お茶という雰囲気ではなくなってしまいましたわね。キャロライン様、アストリット様、場所をお変えしましょう」
「ええ、そうですわね」
「……迷惑をかけてごめんなさい」
「わたくしからも謝罪致します。このようなことに巻き込んでしまい、申し訳ございません」
「アストリット様とキャロライン様は被害者なのですから、謝罪する必要などありませんわ」
ヴァレリーの励ましを受けても、アストリットの表情は暗い。
いや、キャロラインも同じだ。
娘と一緒に命を狙われているのだから、気が気ではないだろう。
レダたちは、王妃と王女を守りながら、屋敷の応接室に場所を移すのだった。
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