9「アストリット王女の事情」②
「俺はどうしたらいいんでしょうか?」
空になったグラスを持ったまま、レダはティーダに尋ねた。
ティーダはレダのグラスに、追加のウイスキーを注いでくれる。
なんだか接待でもされている気分になってしまう。
「駄目元で治療を試みてくれることを、王都の父に伝えよう。父から王妃様に伝えていただければ、指示を出してくれるだろう。我々はそれに従えばいい」
「それしか、ないですよね」
身分の上の相手に、こちらからどうしろなどとは言えないし、言うつもりもない。
レダは、王妃が王都に来いと言えばいかなければならないし、患者のほうから来るならそれをただ受け入れるだけだ。
「すまないがしばらく待っていてくれ」
「わかりました」
この日は、そういうことで話がまとまった。
その後は酒盛りだ。
レダとティーダは、お互いに面倒ごとに巻き込まれてしまったなと苦笑しながら、酒を飲み続けていく。
途中、現れたヴァレリーに「おふたりとも飲み過ぎです」と怒られて解散になるまで、レダとティーダは長年の友人のように、酒を傾け、他愛ない話をした。
領主の苦労。
親の苦労。
いずれ嫁に行ってしまう娘への思い。
ティーダもティーダでいろいろと抱えているようだ。
ヴァレリーが止めにきたときには、ティーダはいい具合に酔っていた。
使用人が彼に肩を貸して寝室へ運ぶと、レダはヴァレリーに挨拶をして家に帰った。
待たなくてもいいと伝えていたのに、律儀に待っていてくれたルナとヒルデガルダに「お酒臭い!」と浴室に叩き込まれたレダが、体を清めて出てくると、軽い夜食が用意されていた。
甲斐甲斐しい家族に感謝しながら、夜食に舌鼓を打つのだった。
――そんなレダたちの下に、王都からの手紙はすぐに訪れた。
◆
再び、レダはローデンヴァルト家のティーダの執務室にいた。
今回は、ヴァレリーも同席している。
「急に呼び出してすまなかったね。診療所のほうは大丈夫かな?」
「もうすぐ診療時間も終わりだったので、ネクセンたちに任せてきました。なにかあったら、娘たちが呼びに来てくれることになっています」
ティーダからの呼び出しがあったのは、大方の怪我人を治療し終えたときだった。
幸いなことに、今日の患者は少なかったのでネクセンたちに任せて問題なかった。
ネクセンもユーリも、少しずつ住民たちの信頼を得ている。
明るいルナや、がんばり者のミナ、しっかりしているヒルデガルダたちがいるので安心してもいた。
「さっそく本題に入ろう。王都から手紙が届いたよ」
「早くないですか?」
「まさか三日で手紙が返ってくるとは私も思っていなかったよ。それだけ、王妃様もレダに期待しているということだろう」
「王妃様はアストリット様をお大事にされていますから」
ティーダの言葉に、ヴァレリーが続く。
おそらく、王族としての力を使えるだけ使ったのだろう。
それを悪いとは思わない。
「お返事はなんとありましたか?」
「いろいろ丁寧に書いてくれてあるが、要約すると――引きずってでもアムルスに連れてくるようだ」
「そ、それは」
「アストリット様のために必死なのですわ」
「一週間以内にこの町に来るそうだ。それと、君にも手紙だ。ヴァレリー」
「はい。こちらとなります」
ヴァレリーが一通の手紙をレダに手渡した。
「俺にですか?」
「ああ、王妃様からだ」
「……うわぁ」
まさか王妃様から手紙をもらう日がくるとは思いもしていなかった。
(――治療に失敗したら首を刎ねるとか、書いてないよね?)
受け取った手紙を恐る恐る開いた。
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