6「王都の事情」②



「そう身構えないでほしい……というのは難しいね」


「すいません」


「謝ることなんてないさ。話の続きだが、私の両親は家督を私に継がせると王都で優雅な隠居生活を送っているんだ。義両親も現役の当主であるが、領地は息子に任せて王都で暮らしている。そろって病気や怪我とは縁がなく元気にやっているよ」


「それはいいことだと思います」




 治癒士として働いているからこその本音だった。


 怪我も病気もないのが一番だ。




「私の両親は、ヴァレリーのことで君に礼を言いたいと常々言っているんだが、なかなかアムルスにくる機会がなくてね。だからといって、レダが王都に行く用事もないし、会えないことを残念に思っているよ」




 実を言うと、レダがアイテムボックスで預かっていたブラックドラゴンを王都に運ぶため、短期間だが町を離れるという話もあった。


 そのときの王都での滞在先に、ローデンヴァルト前当主の屋敷を勧められていた。


 だが、結局、商業連合関係者にアイテムボックス持ちが、それもレダと同じくらいの許容量を持つ人物の手が空いたということでブラックドラゴンはその人物に引き渡されることになり、レダの王都行きも消えた。




「お礼なんて。ティーダ様はもちろん、ヴァレリー様も俺たちによくしてくださっていますし」


「そう言ってくれるのは嬉しいよ。君は私の、その、大切な友人だからね」




 少し照れ臭そうに友人と言ってくれるティーダに、レダもつい照れてしまった。


 貴族と平民が友情など、笑う人間もいるかもしれない。


 王都にいる大半の貴族が、平民を見下していることもあるので、ティーダの正気を疑う者や変わり者だと嘲笑する人間もいるだろう。




 しかし、その程度でティーダは考えを変えたりしない。


 彼は貴族だからと、平民だからと、立場で壁を作ったりしないのだ。


 むしろ、壁があれば率先して破壊し、歩み寄ってくれる。


 ゆえに「変わり者」と呼ばれているのかもしれないが、レダはそんなティーダが好きだった。




 彼だけじゃない。


 ティーダの妻や子供たち、そして妹のヴァレリーたちもみんな貴族らしくないいい人たちだった。


 レダはアムルスに来たのこそ偶然だったが、その偶然に感謝する。


 そのおかげで、愛する家族と大切な友人たちと出会えたのだから。




「さ、話を戻そう。そんな両親だが、先日、国王様と王妃様と面会されたそうだ」


「――え? それって、すごいことです、よね?」




 国王と王妃と聞かされて、レダは目を見開く。


 田舎出身のうだつのあがらない冒険者だったレダにとって、いくら王都で数年生活していたとしてもまるで縁のない方々だった。




「いいや、別に国王様とはいえ用事があり、正規の手続きを踏めば貴族なら誰でも会える。それは、いいんだが、問題は父が国王様に呼び出されたということだ」


「なにかまずいことでもあったんですか?」


「尋ねられたのだ、レダのことを」


「はい?」




 レダは己の耳を疑った。




(あれ? 今、ティーダ様はなんて言った? 王様が俺を? なんでぇ?)




「正確に言うと、国王様に呼ばれたが、レダのことをお尋ねになったのは王妃様だ」


「ど、どどど、どうして王妃様が俺なんかのことを」




 さっぱり意味がわからない。


 知らぬ間に不敬なことでもしてしまったのかと不安になるも、その割にはティーダの雰囲気が切羽詰まっていない。


 どちらかといえば、面倒なことになったという感じがぷんぷんする。




「――どうやら、レダの回復魔法を頼りたいそうだ」


「あ、やっぱり面倒ごとですね」








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