5「王都の事情」①




「そうか。ミナは学校に通うことを選んでくれたんだね」


「はい。お言葉に甘えさせてもらおうかと思います」




 娘たちと学校の話をした日の夜。


 レダは、ティーダ・アムルス・ローデンヴアルトの屋敷を訪れていた。


 ティーダの自室に招かれ、高級なウイスキーを振る舞われていた。


 ワインで唇を湿らすティーダと、他愛ない話をしたあと、子供たちの話をしていた。


 レダたちは、割と頻繁にこうして飲んでいる。


 特別酒好きなわけではないが、男同士が集まれば自然と酒に手が伸びるのだ。




 年齢こそ少し離れているし、領主と平民という立場のふたりだが、ここにいない冒険者テックスを含めてよい友人関係となっている。


 それは、ひとえにアムルスのためを思って行動しているという共通点があるからだろう。


 もうひとつは、親だということもそうだった。


 三人は、友人であり『パパ友』でもあるのだ。




「欲を言えば、ルナやナオミ殿にも学校に通ってほしいと思っていたんだけどね」


「ふたりはそれぞれやることがあると言いました。ルナは俺の手伝いを、ナオミは冒険者としての活動を。どちらもこの町のためになることです」


「そうだね。私には止めようがない。むしろ、感謝しなければならない」




 ティーダは領主として、ルナが診療所を手伝うことと、ナオミが冒険者業をしてくれることに感謝していた。


 とくに勇者であるナオミをアムルスの戦力として数えることができるのは大きい。


 アムルスは、国境沿いにある町のため、敵はモンスターだけではないのだ。


 幸いなことに、現在、隣国の人間とことを構えることはないが、いつどんなことが起きるのかわからないのだ。




「学校はどんな感じなんですか?」


「そうだね……私が知る限り、子供たちは楽しそうに毎日通ってくれているよ」


「ミナに友達ができる日が楽しみだね」


「ええ。あの子はいい子ですから、すぐに友達ができますよ」




 と、親バカなことを言うレダに、ティーダが苦笑していた。




「まぁ、私の子供たちもいい子だからね、すぐに友達ができたよ。ミナだって同じようになるさ」




 ティーダも親バカなようだ。




「だけど、ティーダ様には、アムルスには感謝しています。俺たちを受け入れてくれただけじゃなくて、学校まで」


「気にすることはない。別にレダたちが特別じゃないんだ」




 ティーダの言葉は嘘ではない。


 彼は領主として、子供たちのために学校を建てただけではなく、授業料を無償にすることを決定した。


 彼のおかげで、多くの子供達が学校に通えることとなるだろう。


 親も、子供が教育を受けることに感謝しているだろうし、子供の未来が広がることへの希望も抱くことができる。




「これから学校も大きくなっていくんでしょうね」


「近々、我が領地の別の町からも、子供を受け入れる予定だ。ヴァレリーが保護した子供たちも学校に通わせるつもりだし、忙しくなりそうだよ」




 子供が集まれば自然とアムルスは大きくなるだろう。


 学生寮の建築も今度始まることが決まっており、建設業の人材募集をしているのを見かけたことがある。


 子供だけではなく、大人も増えていけば、住民が増え、経済も回る。




「手伝えることがあれば言ってください。協力しますよ」


「ありがたい。なら、生徒は断られてしまったが、ヒルデガルダ殿に魔法に関する教師をお願いしたいかな。もちろん、手の空いたときだけで構わない」


「わかりました。相談してみます」




 ヒルデガルダが教師をするというのも興味深い。


 彼女は三百年生きているだけあって知識は豊富だ。


 レダも、回復魔法はさておき、他の魔法を習うことがある。


 また、回復魔法関連でも、魔導書を読んで理解できないときに助言をもらうことがある。




(――ヒルダなら向いているかもしれないな)




 今は診療所を手伝い、家事を率先して行ってくれるヒルデガルダの存在にはレダも感謝している。


 彼女がいるだけで、家は明るいし、笑顔が絶えない。


 ヒルデガルダはもう立派な家族なのだ。


 そんな彼女が、子供たちに知識を授け、アムルスに貢献するのであれば素晴らしいことだと思える。




「ところで」


「うん」


「今日はミナの件のご報告とお礼にきたのもそうなんですが、ご用件もあると伺っていたんですけど」


「ああ、そうだったね。実を言うと、君に話しておきたいことがある。いや……相談したいことがあるというべきだろうな」


「相談ですか?」


「ああ、残念なことに、少々厄介なことだ」




 いつもすまない、とティーダが詫びた。


 レダは、




(あ、なんかまた面倒なことに巻き込まれそう)




 と、割と間違っていない予感をするのだった。








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