4「学校」


 一日の診療を無事に終えたレダたち。


 ネクセンとユーリはそれぞれ帰宅している。


 シャワーを順番に浴びて、一日の疲れを落とした一同。


 途中、ルナがレダの背中を流そうとして、ヒルデガルダと喧嘩したり、ナオミがおもしろがって真似したり、と騒がしくもあった。




「え? わたしが学校!?」




 夕食の席で、レダは領主のティーダから提案されていたことをミナに告げた。


 それは、彼女を学校に通わせることだ。


 診療所の手伝いを頑張ってくれているミナには感謝しているが、親として、まだ幼い少女を働かせていることに負い目があった。




 田舎出身のレダでさえ、ミナくらいの歳には学校に通っていたのだ。


 なので、娘にも学校に通い、勉強し、友人を作って欲しいと思っていた。




「うん。ありがたいことにティーダ様の政策で、子供の学業に力を入れているし、学費はかからないからね」




 学費は問題なく払える蓄えはある。


 治癒士としての収入はもちろん、冒険者ギルドからの依頼をこなし、ブラックドラゴンのお金もあるため、懐は暖かい。


 ただ、幼いながらお金の大切さをちゃんと理解しているミナが変に遠慮しないか不安だった。


 なので、学費が免除されることを伝えることで、負い目なく学校に通ってほしいというのがレダの願いだった。




「わぉ。この町って太っ腹ね」




 ルナが感心したような声を出した。


 ヒルデガルダとナオミも同感なのか頷いている。


 アムルスが、子供たちを無償で学校に通わせるのは人材育成を兼ねている。


 子供たちに投資して、優れた人材を育てる。


 将来的に子供たちがアムルスのために役立ってくれるのなら、損はない。




 また、子供は平等に学ぶチャンスを与えるべきだという考えをティーダは持っていた。


 子供の中には、生まれのせいで幼くして働く以外の選択肢を持っていない子もいる。


 そんな子供たちに学ぶ場所を提供し、大きく成長してほしいと願っているのだ。




 親がおらず住まいがない子も、ティーダの妹ヴァレリー・ローデンヴァルトが保護しようと動いている。


 ストリートチルドレンたちも、落ち着きさえすれば学校へ通えるだろう。


 いろいろなことを学び、自分がなにをできるのか知ることができれば、再び路上に戻ることは減るはずだ。




「言っておくけど、学校に通えるのはミナだけじゃないからね。ルナもヒルデもどうかな?」


「えぇ……あたしは別にいいわよぉ。パパの手伝いがしたいし、今さら学校なんて行ってもねぇ」


「強制はしないけどさ。ヒルデは?」


「――あのな、レダ。私は三百才を超えているのだぞ! 子供たちに混ざって勉強などできるはずがないだろう!」


「……あ」


「今、あ、って言っただろう! 前々から感じていたが、レダは私を子供扱いしすぎだ! この中では最年長だぞ!」




 淡白な対応をしたのはルナだった。


 彼女は学校へ通うことよりも、診療所を手伝うほうに重きを置いているらしい。




 ヒルデガルダは、まず自分は子供でないと憤った。


 ときどき忘れそうになるが、彼女はレダたちの家族の中で最年長だ。


 エルフ的には若いのだが、子供たちに混ざって勉強をする歳ではない。


 ヒルデガルダ自身が、そんなことを望んでいないし、仮に学校に通ったとしても精神年齢が周囲と合わず苦痛かもしれない。




(……見た目だけなら、ヒルデがミナと机を並べてもなにも違和感がないんだけどな)




 口にすると怒られそうなので、レダは口を抑えた。




「あらぁ、いいじゃない。ヒルデならお似合いだと思うんだけど? 教室で子供達と並んでいても、違和感ないしぃ」


「ルナ!」


「うふふふ、ごめんねぇ」




 そんなやりとりをするふたりを放置して、食事に夢中なナオミに顔を向ける。




「ナオミはどうする? 年齢的には学校に通えるけど?」


「うーん。今まで学校に通ったことがないので興味はあるのだ。でも、私にはそういうのは合わないのだ。じっとしているのも苦手だし、私は変わらず戦っているほうが向いていると思うのだ」


「ナオミがそれでいいなら、俺は無理強いしないけど……もし考えが変わったら言ってくれ」


「うむ!」




 そして、最初に聞いたものの、返事がまだだったミナに再び尋ねる。




「ミナはどうかな?」


「えっと、学校にいっていいの?」


「もちろんだよ。むしろ、俺はミナに学校に行ってほしいかな」


「どうして?」


「それは、俺が教えてあげられないことをたくさん学べるからだよ。それに、学校じゃないとできない勉強だってあるし、出会えない友達だっている。ミナにはたくさんの経験をして欲しいんだ」


「でも、でもね、おとうさんのお手伝いもあるし」


「そういうのは気にしなくていいんだよ。ミナがしたいことをしてほしい。俺は親なんだ。子供のしたいことを応援するよ」




 ミナはすぐに返事をしなかった。


 だけど、彼女の顔を見れば、どんな答えが帰ってくるのかわかる。


 急かすことはしない。


 レダはじっと待った。


 ルナたちも、余計なことを言わずに、ミナが答えを出すのを待つ。


 そして、




「わたし……学校に行ってみたい!」




 はっきりそう言ってくれたミナに、レダは喜ぶのだった。






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