55「レダとニュクトの再会」④




「ルナ?」


「無駄だよ、パパ。黙って話を聞いてたけど、この女の頭はおかしいって。相手にするだけ無駄だと思うんだけど」


「だけど」


「ルナに同感する。元恋人を失ったことで暴走しているのだろうが、あの男は死に値することをした。そして、それはこの女も変わらない」




 ルナに続き、レダに諦めるよう言ったのはヒルデガルダだった。




「レダが、この女を止めたいのは痛いほどわかるが、諦めたほうがいい。この女は、とうに壊れている」


「言ってくれますねー。じゃあー、わたしのこともー、ジールのようにころしますかー?」




 壊れていると言われながら、ニュクトは笑顔だった。


 レダには、怒りもしない彼女が本当に壊れている気がした。




「俺はニュクトを殺したりしない。だけど、捕まえて、しかるべきところに突き出させてもらう」


「あははははー。それってー、殺すのとどう違うって言うんですかー?」


「あら、あんた。一応、自分がしたことが、死刑に相当するくらいの理性は残っているのね?」




 驚いたようにルナが言うと、「もちろんですー」とニュクトは返事した。




「一線を超えた自覚はありますー。でもー、この町の人間が全員死ねばー、罪にはならないかなーって。ほらー、裁く人がいなくなればー、罪も罪じゃないと思うんですよー」


「……やっぱ駄目ね。あったまおかしいわ」




 お手上げだとルナが肩を竦めたあと、ニュクトを見上げて、問うた。




「ねえ、あんた」


「なんですかー?」


「会話は一応、できるみたいだから聞いておきたいんだけど」


「どうぞー、死ぬ前に好きなだけー、なんでも聞いてくださいー」


「あんたさぁ、ジールのそばにいなかったけどぉ、どこにいたの?」


「どういう意味ですかー?」


「だからそのままの意味よ。あの馬鹿男がこの町を襲撃したときに、あんたはいなかったじゃない。だからどこにいたのって思ったのよ」


「わたしはー、そのときはー、フリーの冒険者をしていましたよー」




 ニュクトの応えを受け、「なぁんだ」と、ルナがくすりと笑った。




「なんですかー、それー。どんな意味がー、あるって言うんですかー?」


「べつにぃ。ただぁ、あんただって、元恋人が落ちぶれているときに離れていたんじゃない。それって、ロザリーとかいう女と同じように、見捨てたってことでしょう?」


「――違う」


「あれ? なに余裕のない声だしちゃってるの? あ、まさか隠してたとか?」


「黙れ!」


「うざったい間延びした声はどうしたのよー?」


「黙れ黙れ!」




 嘲笑とも取れるルナの態度に、ニュクトの顔から表情が消えた。




「ていうか、あんたさぁ、パパに復讐だなんだとか言ってるけど、あんただってジールっていう馬鹿についていけなくなって見捨ててるんでしょ。なら、自分に復讐すればいいじゃない」


「黙れ黙れ黙れ黙れっ!」


「あはっ――図星突かれたら余裕なさすぎて笑えるんですけど!」


「だまれぇえええええええええええっっ!」




 度重なるルナの挑発に、ついにニュクトが絶叫した。




(……きっと、ニュクトはジールから離れたことを後悔しているんだろうな)




 ジールを見限った理由まではわからない。


 だが、ニュクトは、ジールの死を知り、後悔したはずだ。


 そして、怒りや悲しみの感情を持て余し、ロザリーやレダに復讐することにした。




(八つ当たりしなければいられなかったんだろうけど、とても許されることじゃない)




 同情するつもりはない。


 ジールは一線を超えてしまった故に死刑になった。


 最期まで反省もしなかったと聞いている。


 たとえ、反省していたとしても、家族を襲ったジールをレダが庇うことはなかっただろう。




 ニュクトも同じだ。


 逆恨みの復讐をするくらいなら、ジールの傍にいればよかったのだ。


 もしかしたら、ニュクトがいればジールが堕ちていくのを止められた可能性だってある。


 最善を尽くさないであとで文句を言うことは、誰にだってできる。




 レダに復讐するだけならまだ許せた。


 しかし、ニュクトはこの町を巻き込んだ。


 もう許す、許さないの問題ではない。




「はぁはぁはぁ……あはははー、ついー、ムキになっちゃいましたー。さすがー、レダの娘だけありますねー、実に腹立たしいですー」


「あら、ありがと」


「わたしをー、怒らせたんですからー、楽に死ねると思わないことですー! お前たちも殺してー、レダに復讐してやりますー!」




 ニュクトはそう言うと、レダたちに向けて魔法を放った。






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