54「レダとニュクトの再会」③
「どうして、そんなことを? ロザリーがニュクトになにをしたって言うんだ?」
「えー? ジールの恋人だったのにー、あっさりー、見捨ててー、他の男と家庭を持っていたんですよー。尻軽にもー、ほどがあるじゃないですかー」
「……そんな理由で?」
「そんなとはー、失礼ですー。そうそうー、ロザリーはー、生贄にするのにー、丁度よかったんですよー」
「生贄だって?」
「はいー。この町を襲ったー、といってもー、勇者のせいで台無しですがー、まあー、そのモンスターたちはー、ロザリーをー、生贄にしてー、わたしがー、呼び寄せましたー」
生贄、モンスター、次々とニュクトの口から出てくる単語に、今、アムルスを襲う危機を彼女が作り出したのだと分かった。
「町の外でナオミが戦っているモンスターの群れは」
「はいー、わたしがロザリーを生贄にして呼び寄せましたー。その過程でー、死んじゃったんですけどねー。もっと苦しめたかったですー」
ああー、でもー、とニュクトが思い出したように表情を暗くした。
「ロザリーの旦那さんにはー、悪いことをしましたー。あの人はー、別にー、悪くないですからねー。でもー、ロザリーをー、守ろうとしたのでー、殺しましたー」
「……なんてこと」
「もともとロザリーもー、復讐対象でしたからー、それにー、捨てたとはいえー、恋人の仇を取れるならー、彼女だってー、嬉しいはずですー」
勝手なことを言い始めたニュクトに、レダは明確な怒りを覚えた。
ロザリーは、男勝りの性格で、さばさばしたいい人間だった。
言いたいことをはっきり言うタイプだったが、レダを悪く言ったことはない。
どちらかといえば、ネチネチ文句を言うジールを嗜める役目だった。
「ロザリーを生贄にしてまで、俺に復讐したかったのか?」
証拠を見せつけられたわけではないが、ニュクトがここで嘘をつく理由はないと考えている。
「お前たちは友達だったじゃないか!」
「……あんな女ー、友達じゃないですー。それにー、ジールを支えるどころかー、あっさりと見限ったんですよー。せめてー、生贄くらいになってくれないとー、ジールがー、浮かばれませんー」
「俺の知ってるニュクトは、ジールにそこまで入れ込んでなかったはずなんだけどな」
「ええー、そうでしたねー。すべてー、レダのおかげですー。レダがー、ジールを死刑に追い込んでくれたのでー、わたしはー、彼への気持ちをー、再確認できましたー。でもー、今さらー、気づいてもー、遅いんですー。だからー、このー、怒りをー、レダにー、ぶつけることにしましたー」
「……そんなことでこの町を巻き込んだのか?」
「そんなことー、とかー、言われるのは心外ですー」
「俺への八つ当たり同然の復讐で、この町を巻き込んだのか! この町には、たくさんの人が住んでいるんだぞ! モンスターの群れを嗾けて、みんなになにかあったらどうするつもりだったんだ!」
「それこそー、望むところですー。レダを受け入れた町なんてー、滅べばいいんですー。ほらー、それにー、この町がー、ジールを殺したんですよー。みんな死ねばいいんですー」
実に身勝手な言葉だった。
ニュクトがジールを愛していようと、この町に復讐して許されるはずがない。
そもそも、ジールが死刑になったのには相応の理由があったのだ。
それを恨むというのは逆恨みだ。
「あいつはこの町を襲った! 人を傷つけ、殺し、人身売買まで手を染めたんだ! 許されるはずがないだろう!」
「でもー、この町に貢献してー、領主と仲のいいー、レダならー、庇えたはずですー」
「逆恨みで、俺の家族を傷つけたジールをどうやって庇えって言うんだ!」
「そのくらいー、我慢するべきじゃないですかー? まー、もうー、遅いんですけどねー」
レダの言葉はニュクトに届かなかった。
彼女は復讐するためならなんでもするということで完結してしまっている。
たとえ、八つ当たりだろうと、逆恨みだろうと、関係ないのだ。
ニュクトは、レダとこの町を苦しめることができればそれでいいのだから。
「……ニュクト!」
「パパ。もうやめなよ」
それでも諦められず、ニュクトと対話を続けようとしたレダを、ルナが止めた。
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